「本当に優秀で毎回100点」そんなAIが人間に勝てない点とは

 この夏からは、「作曲家・三木たかし生誕80周年記念プロジェクト」を担う新人歌手として、令和の歌謡界で活躍している山下さん。ただ、25年続けてきた「仮歌の女王」の座を手放すつもりはなさそうだ。

「AIの仮歌は、アーティストの細かなニュアンスも網羅して学ぶので、本当に優秀で毎回100点を出せるんです。でも、“心”を込めて歌うことはできないんですよね。作家さんもそれに気づき、途切れてしまった仮歌のお仕事は少しずつ戻ってきています。一度なくなったからこそ、一つ一つのお仕事がものすごくありがたいですし、歌う喜びも増した気がしますね」

山下絵理 撮影/松島豊

「実は、山下絵理として歌手デビューした後も、ライジングプロダクションのガイドボーカルとして、女性アーティストさんの仮歌を務めさせていただいているんです(笑)。私の音楽人生のきっかけをくれた、ハロー!プロジェクトさんのお仕事も継続したいです。ただ、最近は歌手活動を邪魔しないようにというご配慮からか、仮歌のご依頼が少なくてさみしい気持ちです。どの歌も精一杯、“確かなきらめき”を込めて歌いますので、よろしくお願いします!」

 どんなときも、歌への愛と前向きさを忘れずに、一歩ずつ進んできた山下絵理さん。遅咲きの大輪の花は、人生を諦めずに努力を続ければいいことが訪れる……そんな、古き良き時代の神話を思い出させてくれた。彼女の真心のこもった温かな歌声は、これからも人々の心を癒やしてくれるに違いない。

山下絵理(やました・えり)
18歳で仮歌歌手(ガイドボーカル)としてスタジオミュージシャンの道を歩み始め、その25年間にわたる精密な仮歌・コーラス経験から、業界では「仮歌の女王」と称されている。多くのCMソングや人気アーティストの録音に隠れた立役者として活躍。2016年にはTBS系ドラマ『家族ノカタチ』のメインテーマ『Unpredictable Story』とサブテーマをellie名義で手がけ、作詞・歌唱で注目を浴びる。今年25年「作曲家・三木たかし生誕80周年記念プロジェクト」企画で、作曲家・三木たかし氏の未発表曲『水の都』で歌手デビューを飾る。また、ellie名義ではDJ作品やアーティストの楽曲にフィーチャリングボーカルとしても多数参加しており、幅広いジャンルで活躍中。山崎製パンの「ランチパック」、大塚製薬の「ファイブミニ」など多数のCMソングにも携わっている。