「僕はどんな表情でしゃべっているか、自分では分からないですから(笑)」

──阿部さん演じる泰介が、逃亡中、信頼している部下を訪ねたら、部下がゴルフクラブを持って出て来るシーンもありました。

「泰介にとっては悲劇なんですけど、はたから見たら喜劇にも見えますね(笑)。そういうすれ違いが面白いんです。僕もずっと人に見られる仕事をしてきましたが、鏡で自分の顔を見るより、みなさんが映像の中の僕の表情や声を見る回数のほうが圧倒的に多いわけです。いまだって、僕はどんな表情でしゃべっているか、自分では分からないですから(笑)」

──確かに、自分の表情も立ち振る舞いも、自分の目で見ることはできないですね。

「だから、若い頃から“自分のことなんて全然わからないよな”と思いながら生きてきました。お芝居で録音した自分の声を聞いて“俺って、こんな声なのか”とわかるように。この仕事だからこそ、余計にそう思うのかもしれません」