ぼったくりバーへ「ほんまにあるのかな、ヤラセちゃうんかな」

「仙台で『トゥナイト2』(テレビ朝日系)っていう番組をずっと観ていたんです。山本晋也監督が歌舞伎町に行ってレポートするじゃないですか。“東京ってすげえ”と思って、本格的に上京する前に一度下見で行って、どうしてもやりたかったことをやろうと思って……」

ーーどうしてもやりたかったこととは?

「どうしてもぼったくりバーに行きたかったんです」

ーーぼったくりバーに……?

「はい。『トゥナイト2』でめっちゃ注意喚起してたんですけど、ほんまにあるのかな、ヤラセちゃうんかなと思って。で、財布やら全部、金目のものはコインロッカーに入れて、ポケットに1万円札だけ入れて歌舞伎町をウロウロしたら、呼び込みの人たちが"5000円で飲み放題!”ってめっちゃ話しかけてくるんです。ほんまなんやって思って。ひとりのお兄さんをターゲットにして“行きます”ってついてって。お店に着いて“いま1万円札しかないんです”と言うと“全然いいですよ”って受け取って、お釣りをくれないんです」

ーーおお、5000円で飲み放題だと言っていたのに。

「そしたらついた女の子がお酒を頼んで、小さいチョコレートみたいなのを置いて、僕は2杯くらい飲んで。たまに会話をするだけで別に楽しくもないんですよ。もうええわと思ってお勘定をお願いしたら、こんなね、クリーニングのタグみたいな細っい小っさい紙に“¥78,000”って書いてあって。キターー! ほんまやーーー! って思って、"払えないです。5,000円だと言われたんで。お釣りも返ってきてないし”と言ったんです」

ーー堂々と。1万円しか持っていないですもんね。

「そう。それから延々と押し問答。”カードでもなんでもいい”と言うから、“カードもないんで。田舎から出てきて財布もなくて。なけなしの1万円を取られたら僕、もうなにもないんですよ。ポケットも調べてもらえばわかります”と言ったら、“おまえを金融機関に連れていけば金借りられるから行こうぜ”と言うんです」

「そんなことをするくらいなら無銭飲食で警察に突き出してください」「おまえが騒ぐから客がビビって帰るじゃないか、商売の邪魔してどうしてくれるんだ」「そう言われても僕は本当にお金がないんです! 警察に行きましょう!」「上の人間を連れてくるぞ」「でもマジで払えないんですよ」

 ……終わりのない問答は2時間続いた。すると突然、相手が神妙な顔つきで語りかけてきたという。

「”おまえどこの田舎から来た?“と聞かれたので"兵庫の川西です”と言うと、”おまえ、PL学園知ってるか”って聞いてくるんです。彼いわく元野球部で、“ケガして、この有り様や”と。そうしたら急に“おまえ、騙されとんねん。おまえみたいな田舎モンがこんな店来たらあかんねん。俺みたいになったらあかんねん、わかるかボケ”と言われて」

ーー急に兄貴肌に……。

「でも、タダで帰すわけにはいかないと。“上の手前、土下座だけしろ”と言われたので土下座すると、頭をグーっと踏まれてようやく帰してくれました」

 数年前、会いたい人に会う番組のオファーがあった。小田井さんは迷わず彼の名前をあげた。

「お礼というか、もう一回しゃべりたいと思ったんです。まあ実現しなかったんですけどね」

 そこまで話し、「何の話でしたっけ」と我に返る小田井さんのエンタメ性とサービス精神は、とどまるところを知らない。

小田井涼平 撮影/三浦龍司

おだい・りょうへい
1971年2月23日生まれ、大阪府出身。仙台での会社員を経てモデル活動を開始し、上京後、2002年放送『仮面ライダー龍騎』(テレビ朝日系)のメインキャラクターで俳優デビュー。2007年に酒井一圭の誘いで「純烈」メンバーになると、2010年に『涙の銀座線』でメジャーデビューを果たす。スーパー銭湯などを主戦場に熱いファンを獲得し、サービス精神満点のファンサービスが話題に。2018年から卒業した2022年まで『NHK紅白歌合戦』に5回連続出場。2022年10月にはソロアルバム『息子がお世話になりました。』を発売。2017年にタレントで映画コメンテーターのLiLiCoと結婚した。『大好き東北 定禅寺しゃべり亭』(NHK仙台)や『今泊まりたい!いいふろ温泉宿』(BS10)ほかにてレギュラー出演中。