ターニングポイントとなったドラマ『奪い愛』シリーズ

 そんな水野さんにとって俳優としてのターニングポイントとなった作品といえば、ドラマ『奪い愛』シリーズ(テレビ朝日系)だろう。特に第1作目の『奪い愛、冬』(2017年)は、水野さんが“怪演”と呼ばれるきっかけとなった。そして、その“怪演”を生むきっかけになったのも「産休」だったという。

「『奪い愛、冬』は、私が妊娠して産休に入る前に撮影したんです。当時、産休に入ったらしばらく、たぶん1年ぐらいは俳優の仕事は出来ないだろうと。そういう意味で、“産休に入る前にやりきろう!”みたいな思いがありました」

 本作は、婚約者がいる池内光(倉科カナ)の前に、3年前に突如姿を消した元カレ・森山信(大谷亮平)が現れたことから起きるドロキュン(ドロドロしているけどキュンとする)な恋愛ドラマ。本作で水野さんが演じた信の妻・蘭の驚愕の演技が話題になったのだ。ドラマは大ヒットしてシリーズ化され、2017年から2025年まで計4作品が制作されている。今夏放映された『奪い愛・真夏』ではヒロイン・真夏(松本まりか)の母・三子として出演を果たし、やはり独特な存在感を“怪演”で体現してくれた。 

「この作品(『奪い愛、冬』)では、それまで舞台で培ってきたものをもっと出してみようとも思ったんです。鈴木おさむさんが書かれた脚本のトーンと舞台芝居というものが上手く合致した感じがあったので。役を私なりに膨らませて、すごいハイカロリーで演じることで、ある種、視聴者にも作り手の方にも受け入れられて(怪演が)市民権を得たと思うんです。最初は台本を読んで、現場であの芝居をするなんて誰もが想像つかなかったと思いますし、現場と作家さんのセッションで生まれたんです。だから世間で“怪演”と呼ばれるような芝居は、この作品から作られたと思っているんです」

 仕事人間だった水野さんが、束の間ともいえる安らかな日常を過ごすことができたのは「産休」のおかげであり、 “怪演”と評価される芝居ができたのもまた「産休」の賜物だったのだ。