主演映画『人間標本』では蝶に魅入られた父を熱演

――大学教授の榊史朗は、幼少期から蝶に魅せられ、標本作りをしてきた蝶研究の権威です。彼が「美を永遠に留める」ために、少年たちを標本にしたと自首するところから、物語がスタートします。

「今回、東京大学の矢後勝也先生に蝶についていろいろ教えていただいたことで、改めて湊先生の着眼点の面白さを感じました。蝶は人間とは違う波長レンジで見ているため、人間とは世界の見え方が違うんです。そこから湊先生は、蝶が見ている世界と、絵画というアートの世界の人たちが見ている世界をリンクさせ、さらにそれぞれの蝶の特性と登場人物のキャラクターを掛け合わせていっています。本当にすごい発想だと思いました」

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――「親の子殺し」のモチーフも含んでいます。衝撃的な内容ですが、出演を決めたのは。

「お話をいただいてすぐ原作を読ませていただいたのですが、見えている事実が、視点が変わることで二転三転し、最後の最後に本当の真実までたどり着くという展開に驚かされました。おそらく誰も予想できないだろうと思える物語の面白さと、そこに親子の愛情や人間の業というものが織り込まれているところに惹かれて、参加したいと思いました」

――チャレンジングな役だったと思いますが。

「チャレンジする価値があると思いましたが、実際に撮影に入ると、やはりとても難しかったです。本当に(子殺しという)ハードルを乗り越えられるものなのか、自分の中では未だにわからないというのが正直なところです」

――ネタバレ厳禁の物語ですね。

「最後のワンカットまで見ていただくことで、“そういうことだったのか”ということが分かっていただけると思います。とにかく最後まで観ていただいて、そして、もう一度最初から観ていただければと思います」

――榊の息子・榊至は、現代劇ドラマ初挑戦となる市川染五郎さんが演じました。親子としての関係性をどのように深めていったのでしょうか。

「撮影に入る前に、ふたりで“こう演じよう”みたいな話し合いはしませんでした。ただ、母を早くに亡くし、息子と父のふたりで互いに支え合って生きてきたと思ったので、そういった話を撮影の合間にしていました。台湾ロケにも行ったのですが、東京の撮影とは違って、撮影が終わってから食事をしたり、一緒に時間を過ごすことができました。その時間も、親子の関係を作っていく助けになったのではないかと思っています」