その時間は今でも本当に宝物

「お会いした時、これだけはお伝えしたいと思ってお伝えしました。プライベートなことにもかかわらず、笑顔であたたかく聞いてくださって、その時間は今でも本当に、宝物の思い出です」

 そんな土屋さんが憧れの名優と共演する『盤上の向日葵』は、『孤狼の血』シリーズなどで知られる柚月裕子氏の同名小説の映画化で、昭和から平成へと続く激動の時代を生きる一人の青年の光と闇を描くヒューマン・ミステリーだ。
 山中で発見された白骨死体が持っていた希少な将棋の駒を手掛かりに、事件の容疑をかけられた天才棋士の上条桂介(坂口健太郎)と捜査の過程で存在が浮かび上がった賭け将棋で裏社会に生きた男、東明重慶(渡辺謙)。二人の間には何があったのか? 

Ⓒ2025「盤上の向日葵」製作委員会

謎の答えが分かれば分かるほど辛くなる

 土屋さんが演じる宮田奈津子は上条の元婚約者で、原作には登場しない映画オリジナルのキャラクターだ。原作を読んだ感想と原作にない役を演じる上で感じた思いを尋ねると──。

「奈津子が原作にいないからこそ、世界観をずらしてはいけないと思いながら読ませていただきましたが……辛かったですね。人って普通、分からないことの答えが見つかると嬉しいじゃないですか。でもこの作品は、謎の答えが分かれば分かるほど辛くなる。“どうして? どうして?”と言いながら読みました。
 原作から映画化される時は映画ならではの設定が作られることも少なくないですけど、私が演じた奈津子はまさに原作と違う部分なので、まずその点で、責任重大だと思いました。映画化したくなるほど素敵な原作なので、当然ファンの方々もたくさんいらっしゃいますし、原作へのリスペクトは、映画化において一番大切な軸だと思うんです。オリジナルな要素がその世界観に入り込むのはとても難しいので、お引き受けするなら、覚悟が必要だと思いました」

ーーその上で台本を読んだ。