20代は休みが年間で4日くらい

 それでも『まれ』は「心の故郷」だといい、唯一無二の経験をさせてもらったと振り返る。朝ドラヒロインを演じてから10年、土屋さんは今年30歳を迎えた。

「20代の時は余裕が無く、とにかくその日を生きるのに一生懸命でした」

 と、いいますとーー。

「20代は睡眠時間が1時間から3時間くらい、年間で休みも4日くらいしかなかった頃なので、実をいうと記憶がないくらい必死でした。“今”を大切にしたいと心がけていて、目の前の“今”を大切にしたいと心掛けていたけれど、どんどんすり抜けていくような感覚があったんです。そこから10年経って一番変わったのは、その“今”への感覚かもしれません」

 “今”への感覚?

「今も変わらず睡眠不足ではありますけど、その睡眠不足には子育てという新しい理由が加わって、同じように子育て中の友人と共感し合うことが出来ます。自分の“今”は、誰かの“今”と繋がることが出来るんだなと感じるようになりました。私の場合はライフステージの変化がきっかけの一つだとは思いますけど、こういう変化は周りの同年代の友人にも感じるので、仕事にせよプライベートにせよ、『人生経験の積み重ね』が感覚を変えるんだろうなと思います」

 俳優として、母として、妻として、そして一人の人間として今後どのように歩んでいきたいか──。

「本当の意味で、大人になることを目指したいです。日本には幼いものや未熟なものを大切にする(というか愛でる?)文化があって、それはとても素敵だと思うけれど、その一方で『年齢を重ねることを許さない』傾向もあると思うんです。でも、いつまでも変わらず若々しくいることだけが、美しさではないと思うんですよね。思うけれど、でも、どうしたらいいかまでは分からないので、これからゆっくり、ワインが美味しくなるように人として熟していけたら嬉しいです」

(第4回につづく)

土屋太鳳(つちや・たお)
1995年2月3日生まれ、東京都出身。2005年、スーパー・ヒロイン・オーディション MISS PHOENIX審査員特別賞を受賞し、2008年に『トウキョウソナタ』で映画デビュー。2011年にドラマ『鈴木先生』で注目を集め、2015年には連続テレビ小説『まれ』でヒロインを務め、エランドール賞新人賞を受賞した。近年の主な出演作は映画『哀愁しんでれら』、『大怪獣のあとしまつ』、『マッチング』、『帰ってきた あぶない刑事』、ドラマ『やんごとなき一族』、『今際の国のアリス』シリーズ、『海に眠るダイヤモンド』、『警部補ダイマジン』、『Shrink-精神科医ヨワイ-』など。2023年にWOWOWプライム配信『アクターズ・ショート・フィルム3』では『Prelude~プレリュード』で監督に初挑戦を果たした。

●作品情報
映画『盤上の向日葵』
出演:坂口健太郎 渡辺謙 佐々木蔵之介 土屋太鳳 高杉真宙 音尾琢真 柄本明渡辺いっけい 尾上右近 木村多江 小日向文世 ほか
監督・脚本:熊澤尚人
原作:柚月裕子「盤上の向日葵」(中央公論新社)
音楽:富貴晴美
主題歌:サザンオールスターズ「暮れゆく街のふたり」(タイシタレーベル / ビクターエンタテインメント)
全国公開中
配給:松竹
Ⓒ2025「盤上の向日葵」製作委員会
公式サイト: https://movies.shochiku.co.jp/banjyo-movie/