“この物語は、自分の住んでいる世界の延長線上なんだ”と感じてもらえたら

ーーいくつかの食べ物が、印象的に登場します。ロブスタ種のコーヒー、きつねうどん、手作りクッキー、餅入りカレー…… 読んでいると思わずお腹が空いてしまいますが、とても美味しそうに描かれているのは、意識されているのですか?

「すごく意識しています。私の作品はよく食べ物が出てくるんですが、本って香りも色もないけど、みなさんが共通して知っているものを中に入れると、物語の中から知っているものの香りがしたり、味を感じたり、“きつねうどんのお揚げは甘い派だよね” “いやいやしょっぱいほうがいいよ”とか考えたり、登場人物と自分との相性をチェックするときにいっきに距離が縮まったりするんですよね。多くの人がよく知っているものだったらいいな、と思って、物語と読者を結ぶアイテムを入れるようにしています」

ーーたしかに、食べ物の存在で臨場感が増しました。

「普段自分の日常生活にあるものが物語のなかにあることで、 “この物語は、自分の住んでいる世界の延長線上なんだ”と感じてもらえたらいいなと思っています」

ーーちなみに、主人公が唯一食べられなかったのが「餅入りカレー」です。あることが起こって食べることができなくなり、読者としても「どんな味なの!?」ととても気になってしまいます。

「以前、テレビ番組で“正月に余った餅で作ろう” と、カレーのとろみづけとして使っているのをたまたま見たことがありまして。 “小麦粉アレルギーの子のために何かを作るとしたら、そうか、小麦粉を使わずに餅を使えばいいのか” と思ったのを覚えていたんです」

ーー米粉ではなく餅なんですね。

「米粉から作ると水と一緒にこねないといけないし、そのまま入れると ダマになってしまい、かえって手間がかかるんです。餅はそのまま、スープカレー状態のところにぽんと入れるだけでいいんです」

ーーなるほど!

「牛乳ベースの白菜鍋に入れたら和風シチューになったり、カレーうどんに入れてとろみを出したり、お餅って便利ですよね」

 架空の宗教を徹底的に作り上げ、日々の生活も散りばめる。そのバランスが、読者を惹きつけてやまないのだろう。

(つづく)

湊かなえ(みなと・かなえ)
1973年、広島県生まれ。2007年『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録したデビュー作『告白』は第6回本屋大賞などを受賞し、売上累計385万部の大ベストセラーとなる。2014年、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレック賞に選出。2012年、『望郷、海の星』で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞、2016年に『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞した。さらに2018年には『贖罪』がエドガー賞『ペーパーバック・オリジナル部門』にノミネートされた。

【作品情報】
『暁星』(双葉社)
著者:湊かなえ
発売中
定価:1,980円 (本体1,800円+税)
判型:四六判
公式サイト: https://fr.futabasha.co.jp/special/minatokanae/