前提を理解し合えば、異なる宗教の人とも共存できるのでは
ーーたしかに、すんなりと理解するのが難しい価値観です。
「じゃあ、職員室での毎日の習慣でもあった、ミルクティーに砂糖を4杯も入れ続けていいの? と思ったりして。このとき、“根本的に違うんだ。生まれたときから一定の信念を持っている人に対して、よそから来た人間がそれを否定するようなことを口にしてはいけない” と思いました。それで、教会の上の立場の人に相談して言ってもらったんです。“イエス様は、あなたたちがこちらにいるあいだは健康で楽しく過ごしてほしいんじゃないでしょうか” と」
ーーなるほど! 信仰をまったく否定していないですね。
「前提を理解し合えば、異なる宗教の人とも共存できるのではないかと思っています。信仰している人みんなが自分の意思で行動できていて、法を犯さず周囲に迷惑をかけなければ何の問題もないんです。ただ、本人の意思とは関係なく入信させられたり、金銭を要求されたり、社会的な制約を設けられたり、となるとトンガの人たちとはまったく別物になってきます」
自分の意志に反して信仰しなければならず、人生ごと犠牲となる今作の主人公のような宗教2世は、「身近にいるかもしれない」と話す。
「もっと外にいる人が寄り添えることがあるんじゃないかな、と。もがく人たちに寄り添ったり、考えたりするきっかけになったらいいなと思っています」
(つづく)
湊かなえ(みなと・かなえ)
1973年、広島県生まれ。2007年『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録したデビュー作『告白』は第6回本屋大賞などを受賞し、売上累計385万部の大ベストセラーとなる。2014年、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレック賞に選出。2012年、『望郷、海の星』で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞、2016年に『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞した。さらに2018年には『贖罪』がエドガー賞『ペーパーバック・オリジナル部門』にノミネートされた。
【作品情報】
『暁星』(双葉社)
著者:湊かなえ
発売中
定価:1,980円 (本体1,800円+税)
判型:四六判
公式サイト: https://fr.futabasha.co.jp/special/minatokanae/