“歌舞伎役者になった”あと、どんな役者になるか?

 成長期を経て体格の変化や声変わりなどが落ち着いたことが、本格的に歌舞伎の世界に入るきっかけとなったが、素人は思ってしまうのだ。10代で、どうやって一生の道を決める覚悟ができたのだろうか、と。

ーーおそらく周囲は遊びたい盛りを謳歌していて、そんななかで米吉さんはどうやって、学生から歌舞伎役者への「THE CHANGE」を決断されたんでしょう。

「幼い頃から歌舞伎役者になるものだと思っていたから。“自分はこれをやる”というのは、ずっと自分の中で決まっていて、考えるなんていう概念はありませんでしたね。

 ただ、良くない言い方にはなりますが、私たちは、“歌舞伎役者になる”のは簡単なんです。ありがたいことに、歌舞伎役者は代々継承されていく部分が大きい。親が継いで、私もやらせていただいて。極論を言えば、“役者”と名乗れば誰でも役者になれるでしょ?

 歌舞伎の家に生まれさせて頂いたおかげでそれに近いものがありました。だからこそ、“歌舞伎役者になる”だけではなく、その先の、“どんな役者になれるのか”を考える必要がありました」

中村米吉 撮影/松野葉子

 そのためには、立役をやるのか、女方やるのか、選ぶ必要があった。亡くなった祖母から「手が小さいから女方をやったらいいんじゃないか」と言われたことが頭の片隅にあったこと、そして、純粋な興味が後押しし、米吉さんは女方を選んだ。