小物を選ぶ役者のセンスも重要
当時の教えで、「今でもずいぶん役に立っているな」としみじみ思うことがあるという。
「女方の小物ひとつとっても、すごく奥が深いんです。花嫁さんが帯にさす刀、懐剣ってあるじゃないですか。歌舞伎では様々な役で用いますが、懐剣を入れる懐剣袋は役者の好みで、決まりはないんです。“こういう役柄で、衣装はこれで、懐剣袋は何色でしょう?”と問われると、正解はない。だからこそ、趣味が良くなきゃいけない。
さらに、お姫様っぽいのか、腰元っぽいのか、それに袋についている紐の色はどうするのか? というところまで及ぶんですよ。白なのか、浅葱色なのか朱鷺色なのか。黙っていたってどうにもならない。私が決めなきゃいけないわけですよ。そういうことが、山ほどあるんです」
すべては、舞台に出て、綺麗に見せるため。米吉さんは、まるで丹頂鶴が雪上に舞い降りるような繊細な仕草で、砂時計を傾けた。
■五代目 中村 米吉(ごだいめ なかむら よねきち)
1993年3月8日生。東京都出身。播磨屋。2000年に襲名し初舞台を踏んだ。2011年に女方を志し、2015年に『鳴神』で雲の絶間姫役を演じ十三夜会奨励賞を授賞、2021年には第42回松尾芸能賞で新人賞を受賞した。近年はバラエティ番組ほか、2023年1月よりドラマ『ママはバーテンダー~今宵も踊ろう~』(TBS系)で連続ドラマ初出演。WEBメディア「ステージナタリー」でコラム「中村米吉の#カワイイは世界を救う?」を連載している。またWEBラジオAuDeeでは『中村米吉の悪魔の時間』で甘いものを歌舞伎のお役に例えてご紹介。9月2日~25日に歌舞伎座にて「秀山祭九月大歌舞伎」に出演。