純文学の登場人物になりたい
「ちょうどその頃に母が肺がんを患って、それで私のほうが食べられなくなって、一気に痩せたんですよ。3か月で8キロぐらい。で、その後、母の手術も終わって落ち着いた頃に、母が今度は“あんた、痩せてきれいになったから女優やんなよ”って言いだして」
――ずいぶんな変わりようですね(笑)。
「そうなんです(笑)。その頃に母が監督と脚本を務める映画に出演することになって。それが、とにかく、かわいそうな人の役だったんです。とあるシーンを撮っているときに、ちょっと気持ちが入り過ぎちゃって5、6時間、ずっと泣きっぱなしになっていました。
そんな極限状態を経験して、“やっぱり俳優やりたい”という気持ちが強くなって両親に相談したら、やっと認めてくれて」
――現場での姿を見てくれたからなんでしょうね。そんな咲耶さんは今回、映画『星と月は天の穴』でヒロインを務めましたね。
「はい。妻に逃げられた40代の小説家・矢添と、矢添を取り巻く女性たちを描いた物語です」
――原作は“日本一のモテ男”とも称された作家の吉行淳之介さん。
「もともと純文学が好きだったんです。特別、読書家ってわけではないんですけど、中学生の頃に“最後まで読める”と思った小説が純文学ばかりで。それ以来、谷崎潤一郎さんなどの作品を、よく読むようになりました」
――今回の配役が決まったときは、どうでした?
「はい。いつからか、純文学の登場人物になりたいって願望が芽生えてきていたので、すごく嬉しかったです」
――咲耶さんが演じたのは、綾野剛さん演じる矢添が出会う女性の一人・女子大生の紀子。どんな女性だと受け取りましたか。
「ちょっと強気で、小悪魔な性格。でも、それに反して、ドMでファザコンっぽい部分もあって。そういう複雑なキャラクターが魅力的だと思いました」
『星と月は天の穴』瀬川紀子(咲耶) 🄫――演じるにあたって、心がけたポイントは?
「描かれた時代が1960年代だったんですが、その当時の20代の女性って、今としゃべり方が全然違って。それに、そもそもの言葉遣いや、たたずまいも違うんです。そういったところから勉強しようって思い、60年代の映画や当時の映像を、ユーチューブで片っ端から見て研究しました」