観客から受け取るエネルギー
2020年のことだった。歌舞伎座で何度もやっている役なのに、上手くいかないという焦燥感がまとわりついた。でも、観客はキラキラとした目線を向け、純粋な応援をしてくれている。
「このときに思ったんです。若手公演に対する盛り上がりを、素直にありがたく受け取るなかで、“これは、こういう公演なんだ”という割り切った目線を持とう、と。
と同時に、“お客さまが楽しければそれでいい”と媚びになってもいけないこともわかっています。お客さまに喜んでもらえるお芝居をやることと、先人たちが築いてきた歌舞伎の芝居を、どうやって先人たちに恥じないようにつとめあげるか。そのバランスは常に意識しなければと思っています」
どの世界にも”推し”文化は浸透しているが、歌舞伎界もご多分に漏れず”推し”を応援する側面が大いにある。むしろ、もっとも古い推し界隈ではないだろうか。真正面から真摯に思案し続ける米吉さんの姿を見たら、そりゃあ推したくなるわけなのだ。
■五代目 中村 米吉(ごだいめ なかむら よねきち)
1993年3月8日生。東京都出身。播磨屋。2000年に襲名し初舞台を踏んだ。2011年に女方を志し、2015年に『鳴神』で雲の絶間姫役を演じ十三夜会奨励賞を授賞、2021年には第42回松尾芸能賞で新人賞を受賞した。近年はバラエティ番組ほか、2023年1月よりドラマ『ママはバーテンダー~今宵も踊ろう~』(TBS系)で連続ドラマ初出演。WEBメディア「ステージナタリー」でコラム「中村米吉の#カワイイは世界を救う?」を連載している。またWEBラジオAuDeeでは『中村米吉の悪魔の時間』で甘いものを歌舞伎のお役に例えてご紹介。9月2日~25日に歌舞伎座にて「秀山祭九月大歌舞伎」に出演。