3回のオリンピックを経験し、2001年の世界陸上ではスプリント種目の世界大会で日本人として初のメダルを獲得した為末大。競技への思考の深さから「走る哲学者」と称され、現役を引退してからはスポーツに関してのさまざまな提言で、たびたび話題になっている。スポーツに向き合ってきたその人生には、どんな「CHANGE」があったのだろうか。
【第1回/全5回】

為末大 撮影/三浦龍司

「大谷選手は奇跡のような存在」

「よろしくお願いします」。取材前ににこやかな笑顔を見せてくれた為末大さん。その佇まいはしなやかでありながら、力強さも感じさせる。競技を引退して10年以上になるが、まだまだ現役アスリートの雰囲気があった。

 2023年7月13日に発売された著書『熟達論』(新潮社)は「現代の五輪書」とされ、基礎の習得から無我の境地まで、人間の成長を五段階に分けて説いたもの。
成長と聞いて、多くの人々の頭に今、真っ先に浮かぶのは、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(28)だろう。 

 世界最高峰のメジャーリーグで投手と野手の二刀流で圧倒的な活躍を見せ、MVPも獲得。若くしてモンスター級ともいえる境地に達している大谷選手は、どこまで熟達していると為末さんは考えているのだろうか?

為末「まず熟達の定義はパフォーマンスと相関するものではないとしています。誰もが熟達できるし、熟達したからと言って誰もがオリンピックに行けるわけでもない。客観的な指標もさることながら、その人なりの探求があるのだと思います。スポーツは身体能力の影響がとても大きいので、仮に熟達度合いがそれほどではなくても、身体能力に恵まれなくて熟達している人に勝ってしまうこともあります

 大谷選手ほどの信じられないパフォーマンスができるのは、身体的な能力と熟達が極まった稀有な例ですね。奇跡のような存在だと思います」