3回のオリンピックを経験し、2001年の世界陸上ではスプリント種目の世界大会で日本人として初のメダルを獲得した為末大。競技への思考の深さから「走る哲学者」と称され、現役を引退してからはスポーツに関してのさまざまな提言で、たびたび話題になっている。スポーツに向き合ってきたその人生には、どんな「CHANGE」があったのだろうか。
【第4回/全5回】

為末大 撮影/三浦龍司

「淡々とした母親のありがたさ」

 為末大さんは2012年のロンドンオリンピック出場を目指していたが、同年に開催された日本選手権を最後に、現役を引退した。オリンピックには3回出場、世界陸上で銅メダルを2回獲得。成績的にも恵まれた競技人生だったが、家族の影響がまた大きかったという。

為末「家族では母親の影響が大きいですね。淡々としたタイプで、私に対してはいつも、何をするにしても“自由にどうぞ”という感じだったんです。家に取材が来たりすると、家族も一緒に浮足立ってくるんですが、それがないんです。
 とにかく生活をルーティン化するタイプですね。18歳で家を出て以来、ときどき実家に帰るんですけど、そのときに出てくる朝ごはんのメニューがずっと変わらない。玉子焼きにウィンナー2つ、それと大根おろしになめたけを乗せたものと、ごはんにおみそ汁。30年以上、変わっていないんですよ」

 自分が変化に満ちた生活を送る中、その変わらなさはありがたいものだったそうだ。

為末「選手って自分の競技力が落ちると、それに自分の価値がリンクしているように思えて不安になるんです。そういうときに実家に帰ると、自分とは無関係の淡々とした日々が続けられていて、“またやっていこうか”という気分になれました。競技とは切り離された世界があったのは、本当に良かったです」