国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズのディレクターとして、数百万人の「勇者」たちに冒険を届けてきた藤澤仁さん。巨大な看板を背負い、王道ファンタジーの最前線を走り続けてきた彼がいま、現実と虚構の境界を揺さぶる「日常侵蝕ゲーム」という新たなエンターテインメントで世間を熱狂させている。
 フリマアプリでたまたま見かけた、誰かの使い古した財布を購入。届いた財布の中には、見知らぬ女性の保険証、不気味なレシート、謎のメンタルクリニックの診察券、そして「伊澤政則」とだけ書かれた真っ黒な名刺が入っていた――。
 他人の人生を覗き見する背徳感から始まり、やがて読者自身の日常が不可解な謎に「侵蝕」されていく。クリエイター集団「第四境界」の総監督として彼が仕掛けるのは、そんな現実世界そのものを舞台にするARG(代替現実ゲーム)の世界だ。
「画面の中にプレイヤーを引き込むことに限界があるなら、逆に、物語のほうを現実世界にあふれ出させればいい」。その逆転の発想から生まれ、熱狂的なヒットを記録した体験型グッズが、ミステリー小説『人の財布〜高畑朋子の場合〜』(双葉社)として新たに刊行された。
 本作はただページをめくるだけの小説ではない。本に挟み込まれた実物さながらのアイテムを使い、実際に登場人物とメールを交わすことで、読者自身が“当事者”として物語に巻き込まれていく。かつてない「読むARG」として、大反響を呼んでいるのだ。
 誰もが羨む『ドラゴンクエスト』のディレクターという絶対的な安定を手放す――。その人生最大の転機、THE CHANGEを経て、藤澤さんは何を手放し、何をつかもうとしているのか。
 赤川次郎や村上春樹に熱中した少年時代。20歳のときに書いた幻の小説。師匠・堀井雄二氏の背中から学んだ「体験」の真髄。そして、今作を執筆するために決行しようとした「知床の缶詰」騒動まで。稀代のストーリーテラーが語る、創作の原点とエンターテインメントの未来に迫るロングインタビュー!(第1回/全5回)。

第四境界・藤澤仁総監督 撮影/河村正和

 フリマサイトでたまたま見かけた、誰かの使い古された財布。その財布の中には、見知らぬ持ち主の生々しい痕跡と、不可解な謎が詰まっていた――。何気なく過ごしていた日常に、じわじわとミステリが侵蝕してくる。「日常侵蝕ゲーム」を手がけるクリエイター集団「第四境界」の総監督・藤澤仁さんは、日本を代表するゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズで長年ディレクターを務めてきた人物だ。その彼が王道RPGから離れ、新たに挑んでいるのがARG(代替現実ゲーム)。ゲーム機を使わずに、現実世界そのものを舞台にして物語が展開する全く新しいエンターテインメントである。

 これまでに15作のCASEMARK(作品)を発表し、財布やカレンダー、交換日記などを店頭やフリマサイト、イベントなどで販売。日常空間にさまざまなゲームを仕掛けてきた藤澤さんだが、彼のルーツを紐解くと、意外にも「ゲーム」ではなく「活字」の世界に行き着くという。