村上春樹作品との出会いと「小説家」への憧れ

「実は僕、子どもの頃は漫画よりも小説ばかり読んでいる少年だったんです。同世代の子たちが『Dr.スランプ』や『ドラえもん』といったメインカルチャーに夢中になっている中、僕は暇さえあれば本を開いていました。だから、僕の中の物語のベースは、映像や絵ではなく『文字』でできているんだと思います」

 特に読み耽ったのは、赤川次郎の作品群だ。「当時、図書館にあった赤川次郎さんの本は全部読みました。『三毛猫ホームズ』シリーズはもちろんですが、カジュアルなミステリーと思いきや、時々すごく文学性の高い作品が混ざっていることがある。ミステリー特有の『どこで人をビックリさせるか』という物語の構造は、今の僕の作風にも大きく影響を与えています」

 さらに高校時代、彼の人生を決定づける作家との出会いがあった。
「村上春樹さんの作品です。『風の歌を聴け』を読んだときは衝撃的で、『自分もものを作る人になりたい』と強く思わされました。読んだ直後は、自分が書く文章がすべて村上春樹文体になってしまう病気にかかりましたね。恥ずかしくて当時の文章は読み返せません(笑)。あとは宮本輝さんの往復書簡形式の小説『錦繍』。最近だとヨルシカさんが書簡型小説を出されていますが、ああいう表現の面白さに触れたことが、物語の在り方を考える原点になっています」