初期衝動が脈打つ、事務所の片隅での孤独な戦い
しかし、その壮大な計画はあっけなく頓挫する。「よく考えたら、知床まで行く移動時間のほうがもったいないなと気づいて、キャンセルしました(笑)。結局、自分の事務所に引きこもって缶詰になりました。知床は完全に気の迷いでしたね」
30数年ぶりの本格的な小説執筆。事務所での孤独な2週間の戦いを経て、彼はまず1本目の短編『人の財布』を完成させた。「『ああ、小説ってこうやって書くんだったな』と、かつての感覚を少しずつ思い出しながらの作業でした。その後、さらにもう2週間の時間を取らせてもらって、もう一つの短編も書き上げました。著者は僕ということになっていますが、第四境界のメンバー総出で環境を作ってくれたからこそ完成させられた一冊だと思っています」
知床の大自然ではなく、東京の事務所の片隅で生み出された小説版『人の財布』。そこには、少年時代から変わらない「文字で人を驚かせたい」という彼の純粋な初期衝動が、静かに、しかし熱く脈打っている。
つづく