国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズのディレクターとして王道ファンタジーの最前線を走ってきた藤澤仁さん。彼がいま総監督として率いるクリエイター集団「第四境界」は、現実と虚構の境界を揺さぶる「日常侵蝕ゲーム」で世間を熱狂させている。
 その最新作となるのが、現在発売中のミステリー小説『人の財布〜高畑朋子の場合〜』(双葉社)だ。フリマアプリで誰かの使い古した財布を購入するところから始まる本作は、本に挟み込まれたアイテムを使い、登場人物と実際にメールを交わすことで、読者自身が“当事者”として物語に巻き込まれていく、かつてない「読むARG(代替現実ゲーム)」となっている。
 誰もが羨むディレクターの座という絶対的な安定を手放す――。その人生最大の転機、THE CHANGEを経て、藤澤さんは何を手放し、何をつかもうとしているのか。稀代のストーリーテラーが語る、創作の原点とエンターテインメントの未来に迫るロングインタビュー!(第2回/全5回)。

第四境界・藤澤仁総監督 撮影/河村正和

 第四境界による初の小説『人の財布~高畑朋子の場合~』は、“読む”ARG(日常侵蝕ゲーム)という、まったく新しい読書体験を提供する。これまでリアルイベントやWebを介した展開を主軸としてきた彼らにとって、あえて「紙の書籍」というアナログな媒体に挑んだことには、明確な狙いがあった。

「ARGと小説の最も違うところは、ターゲットの広さです。ARGは体験する人が不特定多数。年齢も性別も住んでいる場所も分からない人たちに向けて発信するため、誰にとっても通用する汎用的な物語でなければならないという『宿命』があります。でも、それを小説という形に切り出したとき、その宿命から解き放たれるんです」