“何もしない”に限りなく近づけることが一番のCHANGE

「インフルエンザは、ぶり返したかなと思ったら、ウイルスの型が違ってて結局連続で2回かかりました。いっぱいマスクしたりしてたんですけど全然ダメで、強烈でしたね。

 インフルエンザの患者さんがいる、その廊下を通らないで行ける方法はないかなと思っていろいろ考えてみたんですけど、やっぱりなかったんですよ。後にその経験があったからそれからあと、別の棟から入って、廊下を通らないですむ方法を発見できたんですけど……すごい病院の抜け道に詳しくなりました。

 あとはやっぱり有名な救急病棟だからか、撃たれた人とか運ばれてきていて。精神的にもすごいショックを受けたというか、見たくなくて。酔っ払って、たとえばケンカでもすごい血が流れてたりするから、ほんとうに怖いと思って。

 でも病院に行かないことにはお見舞いできないし、いっぱいいっぱいな気持ちのところに、あんまりいい感じの状況じゃなかったので……“それも、あんなに何回もインフルエンザにかかった原因かしら”と思うんですけど(笑)」

 最後に、吉本さんに「CHANGEする、変わる」という言葉から思い浮かぶことをたずねた。

「テーマと相反している考え方で仕方ないんだけど、だいたい皆さん何かするから、逆に変われないんだと思うんですね。だから私にとっては、“何もしない”に限りなく近づけることが一番のCHANGEに近づく道だと思ってます。

 やっぱり周りの人を見ていて悩み事とかを聞くと、“変えよう、変えよう”とするから変わらないのであって、自然に、なるべく低く低く自然に流してる中でやっぱり“ここだ!”っていうポイントがあると思う。そのポイントをとらえるほうが、早く変われるんじゃないかなとは思います」

吉本ばなな 撮影/湊亮太

 人生の「CHANGE」について語ってくれた吉本さん。その言葉は、これからも人々の心に何かをもたらしてくれるはずだ。

吉本ばなな(よしもとばなな)
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『はーばーらいと』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。