少しだけ出ている顔の表情から、人の幸せがこんなにも伝わってくるんだ

ーー無視すらもコミュニケーションなんですか。女王様には、人間関係を操る能力が必要なんですね。

新井「それもなきゃダメでしょうね。その場の空気の流れを読むことに長けている女性と、あとは健康で勇気を持った人。そういう人が人気があるし、女王様に向いていると参謀から聞いてます」

新井英樹 撮影/冨田望

 新井さんがこれまで感銘を受けてきたのは女王様だけではない。『EUREKA』を訪れるM男さんたちからも、たびたび刺激を受けているという。

新井「70歳近い人が“ギャーー! お許しください!”と大声で言っている姿を見たとき、感動したんです。生き生きとしていらっしゃって、なんて幸せそうなんだ! と。

 同じような場面を、深夜番組で見たことがあって。女王様に顔面を踏まれている男性がいて、顔ははっきりと見えないものの、隠れていない部分の表情から、この上なく幸せそうな笑みが浮かんでいるのを見たとき、俺、泣きそうになったんです。少しだけ出ている顔の表情から、人の幸せがこんなにも伝わってくるんだ、って」

ーー新井さんご自身も、そういった境地に達したことはありますか?

新井「残念なことにないんです。ただ、女王様から“新井さん、××やろっか”と言われたときに、“いや……いいっす”と言いながらも周りを見て、“ここで激しく拒絶すると、この場の空気が停滞してしまって、おもしろくないよな。俺の反応で女王様がゲラゲラ笑うなら、やってみようか”と思うんです。でもその考え方が、“新井さん、その発想はM男だよ”と女王様に言われたんですけどね」

「笑顔になるなら、それでいいです」と、新井さんは自嘲気味に話すのだった。

【プロフィール】
■新井英樹(あらい・ひでき)
1963年生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、文具メーカーに就職、営業マンになるも漫画家を志して1年で退職。1989年に『8月の光』でアフタヌーン四季賞を受賞しデビュー。1993年、自身のサラリーマン時代の経験をヒントに描いた『宮本から君へ』で第38回小学館漫画賞青年一般向け部門を受賞。以降、『愛しのアイリーン』『ザ・ワールド・イズ・マイン』『キーチ!!』シリーズなど、掲載誌で異彩を放つ衝撃作を発表。2018年には『宮本から君へ』がテレビドラマ化され、映画『愛しのアイリーン』が公開。現在、新人女王様ふたりと、彼女たちを取り巻く個性的かつ魅力的なキャラクターによる人間讃歌『SPUNKー スパンク!ー』(KADOKAWA)を『コミックビーム』で連載中。6月12日に単行本1・2巻が刊行された。