オタクの青年から正義の勇者、さらには闇金業者やAV監督まで、まったくの別人格を深く掘り下げて演じる山田孝之。幅のあまりの広さから、人は時に彼を“カメレオン俳優”と呼ぶ。声優、監督演出家、音楽活動、青果の生産者など多彩な顔を持ち、すべての活動に全身全霊を傾ける山田さんの「CHANGE」とは、なんだったのだろうか?【第3回/全5回】 

山田孝之 撮影/吉村智樹

いつかナイフ1本で無人島に住みたい

  原生林で撮影された新作映画『唄う六人の女』に主演した山田孝之さん。森林で過ごした心地よい時間を振り返るうちに、話題は次第に野菜の栽培へと移っていった。山田さんは全国の耕作放棄地を農地に蘇らせる活動をしている。その理由とは。 

山田「10代の頃から“いつか俺はナイフ1本を手にして無人島に住みたい”と考えていました。ナイフで木の実を切り取ったり、魚をさばいたり、自然の中で暮らす生活を夢想していたんです。もともと田舎で育ったのもあって、緑に囲まれていると落ち着くんです。

 東京に出てきてから、自給自足の生活にさらに憧れるようになりました。だって、鹿児島の中学生が上京するって、とんでもない変化です。さらに芸能界という、これまで経験がない世界へ飛び込むわけですから、簡単にはついていけない。頭の中も感情も、ぐるんぐるんにこんがらがってしまう。心のどこかに“田舎へ戻りたい”という気持ちはありました。もちろん忙しい日々からの現実逃避という点は大きかったでしたが。」

 10代の頃から胸に秘めた自給自足への憧憬。その夢は絶えることなく膨らみ、山田さんは現在、農作業のコミュニティを構築。全国の仲間たちと畑を耕している。

山田「全国十数ヵ所に畑があります。日本の各地に耕作放棄地がいっぱいある。地主さんがご高齢となり、後継者がいないため、畑が荒れてしまうんです。それで“私たちに農作業をやらせていただけませんか”とお願いし、話し合いながら栽培を進めています。それぞれの場所に管理者がいて、活動を報告しあう。メンバーにはプロの生産者がいますが、多くの人は兼業です。土日しか動けない人、平日も動ける人などが“私、この日なら行けます”など連絡を取り合うんです。そうやって補いあいながら、野菜を育てるだけではなく、みんなで人間関係も学んでいるという感じです」