薫ちゃんが勝手にやってくれるという感覚

「最初の頃は、薫ちゃんを頭で考えて演じていました。でも、やっているうちに、何も考えなくなって。現場に行って芝居をすれば、薫ちゃんが勝手にやってくれるという感覚になったんです。だから、そこに存在すればいい、という感じですね」

寺脇康文 撮影/川しまゆうこ

ーーその境地に、ほかの役でも達しているんでしょうか。

「たぶん、薫ちゃんだけだと思います。ほかの役は頭で考えていますね。薫ちゃんには、“任せろ”と言われている気がしています」

 以心伝心となった寺脇さんと薫だが、薫の存在が寺脇さんの重荷になっていた時期もあったという。

「『相棒』を卒業して、そのあともいろいろな役をやらせていただいているとき、何をやっても“『相棒』の薫”と言われるから、“いやいや、違うから。他にもやっているんだよ”と思ったりしたこともありました。でも今はまったくそんなことは思わないです。もう一生薫でいい、くらいの気持ちですね」

ーー『相棒』が寺脇さんにもたらした変化は、どんなものですか?

「うーん、そうですね。自分の役割を与えてもらった気がします。観てくれた人が喜んでくれたり、楽しんでくれたり、泣いてくれたり。その人の次の日が元気になってくれたり。“自分が役に立っているんだな”と、ある時から思えるようになったんです。誰かの役に立てることの喜びを感じられるようになったのが、『相棒』がくれた変化ですね」

■寺脇康文(てらわき・やすふみ)
1962年2月25日生まれ、大阪府出身。1984年に三宅裕司主宰の劇団『スーパー・エキセントリック・シアター』へ入団し、1994年に岸谷五朗と共に退団後、演劇ユニット『地球ゴージャス』を結成。1996年4月から『王様のブランチ』(TBS系)の初代総合司会を10年間務める。2000年から2008年まで『相棒』(テレビ朝日系)で警視庁特命係の刑事・亀山薫役を務め、その演技が評価され主演・水谷豊と共に第16回橋田賞俳優部門を受賞。2022年10月12日放送の『相棒season21』で14年ぶりに「5代目」相棒として復帰。