上品で柔和な微笑みが「やさしいお母さん」のイメージを後押しする、俳優の市毛良枝さん。一方で、キリマンジャロ登頂や南アルプス単独縦走を成し遂げるなど、本格的な登山愛好家としての顔も持つ。豊かな人生経験がにじみ出る市毛良枝さんの、THE CHANGEとは。【第1回/全5回】

市毛良枝 撮影/三浦龍司

 イスに腰を掛けるだけで、会釈をするだけで。そんなさりげない所作に、気品が漂う。挨拶もそこそこに思わず「おきれいですね」と声をかけると、

「とんでもないです。そんなことを言っていただくような者ではございません」

 こう謙遜するのは、俳優の市毛良枝さんだ。

 デビューは1971年。誰もが知る大女優だが、12月12日に控える朗読劇『音楽のある朗読会 あなたがいたから~わたしの越路吹雪~』に向けて「もう1か月前ですよね、ドキドキしっぱなしです」と新鮮な緊張感を漂わせる。

ーー市毛さんほどの方でも、緊張するんですね。

「なくならないですね。だから、楽にならないからつらいですよ。ほんとうは、片手間でできるようになったらいいな、とは思うんですけど。たとえば和菓子を作る人って、あんこを手でパッと取ったら、100gが必要なら100gが取れるようになるっておっしゃるじゃないですか。そういうふうになったらいいな、と思いますが、ならないんですよね」

 身体に染みついた職人技に、憧れの眼差しを向ける市毛さんは、さらに意外な舞台裏を明かす。

「舞台の芝居のときは、30分前から全部の手持ちの小道具を持って袖で待ってて。みんなが“置いてもいいんじゃないですか”と言うんですけど、“いやだ。始まったときに持ってなかったら、怖いじゃない?”って。30分前からずっと握っているんです」