だからほんとうに、生ってステキだな、と思います
ーー反応が気になるんですね。
「気になります気になります。昨年やったときも、“絶対に毎回そこで笑いが来る”というところがあったんですけど、たまに笑ってくれない日があるんですよね。そうすると、舞台上の全員が緊張しちゃうんですよ。“今日、笑ってくれなかったらどうしよう……”“次はどこで笑ってくれるんだろう……”って。だから誰かが笑ってくれると、“ああ良かった!”って、みんなでハァ~~ッ! ってなるんです」
ーー日によって反応が違うんですね。
「全然違います。お客様は、その日に偶然居合わせた方ばかりのはずですけど、この日はたまたま温かい人の集まりだったとか、比較的クールに観る人が集まったりだとか、遠慮がちに観る人が多かったり……と、まったく空気感が違うんです。
涙を拭きながら、グシュグシュっと鼻をすする音も全部聞こえます。泣いてくださるときはうれしかったりするので、私もつられて泣きそうになります。すごくこたえるんですけどね。だからほんとうに、生ってステキだな、と思います」
「舞台は生物(ナマモノ)」という言葉があるが、観客の存在がこんなにも舞台上の役者に影響を与えていたとは。「早く楽にしてほしい」と話す一方で、市毛さんは舞台ならではの臨場感の素晴らしさを、目を細めながら教えてくれるのだった。
■いちげ・よしえ
静岡県出身。文学座付属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年にドラマ『冬の華』でデビュー。俳優としてドラマ、映画、舞台と幅広く活躍すると同時に、芸能界随一の登山愛好家としての顔も持ち、NPO法人日本トレッキング協会理事を務める。2024年2月に新刊「73歳、ひとり楽しむ山歩き」が発売予定。
■音楽のある朗読会『あなたがいたから~わたしの越路吹雪~』
作:井出真理
演出:鈴木聡
音楽:滝澤みのり
出演:市毛良枝
バイオリン:伊藤友馬
チェロ:福井綾
ピアノ:滝澤みのり
2018年に「帯ドラマ劇場」で放送された『越路吹雪物語』(テレビ朝日系)。昭和の大スター越路吹雪役を大地真央が、そのマネージャーであり稀代の作詞家・岩谷時子役を市毛が演じ話題となったが、それから5年の時を経て、岩谷時子没後10年となる今年、市毛が再び岩谷として愛と葛藤の日々を語る。12月12日に古賀政男音楽博物館内けやきホールにて上演。当日券販売あり。詳細はアミューズHP内市毛良枝オフィシャルサイトまで。