子供の頃に開き直った!不器用でよかったって

長嶋「突然始まるセッションの時は何も考えずに乗ればいいんだね」

コナリ「踊ればよかったんだ! キーボードで怒られたという経験があるので、音楽に関しては疎外感があったんですよね」

石川「ちゃんとやろうとしてちゃんとできないのが一番かっこ悪いから、”私はちゃんとできない”という意識を持っているのも大事なことなんだよね」

長嶋「出鼻をくじいちゃやっぱりダメですよね。出鼻こそ最初に盛り立てないと」

石川「あれれ?と思っても、調子に乗らせた方が伸びる可能性があるしね。最初に否定しちゃうと続かないもんね」

長嶋「そうですよね、コナリさんは物凄いトラウマになっちゃってるし。続けてたら趣味が広がるかもしれないし、楽しいなって思うのは大事ですよね」

石川「僕はもともと手先がすごい不器用で、普通の人なら簡単にできるポテトチップスの袋開けとかねじ回しとかができないんですよ。だから子供の頃に開き直ったんだよね。誰もが普通にできることができたなら、今やってるような表現にならなかった。不器用でよかったって思うよね」

――(編集・平田)「名言ですね!」

長嶋&コナリ「すごい!」

長嶋「コナリさん、今からでも楽器をやりましょうよ」

コナリ「え!?」

長嶋「僕は数年前から近所のドラム教室に通ってて。バンドブームの頃、高校生だったからギターに憧れるし、ベースに憧れるし、ピアノも憧れるし、でも全部挫折しちゃったのよ。ギターはFコードが押さえられなくて。でも少し前、近所の、歩いて3分の所にドラム教室があって。それで一度くらい、独学でなく金払って、メソッドのある教えを受けてみようと思ったんだよ。ドラムもダメだったらもういいやって思ったんだけど、これが楽しいんだよ! いや、もちろん全然素人ドラムで下手だけど。発表会をやると、小中学生とおっさん、おばさんが混ざってやるんだけど、小中学生の方が自信に満ちてて、ヒットする音も迷いがなくてなあ」

石川「僕はギターの弾き語りもやってるんですけど、未だにFコードを押さえられないんです。だから指2本か3本で押さえるコードだけで曲を作ってます。それで還暦すぎまでやれてるからね」

長嶋「Fを押さえられないのは挫折じゃないんだ。その発想だね! F押さえようとすると痛いじゃないですか」

石川「そうそう、痛いんだよ。あんなことすると指の神経がどっかおかしくなっちゃうよね」

コナリ「Fってどんな押さえ方なんですか?」

長嶋「人差し指で6弦全部押さえなきゃいけないんですよ」

石川「俺はそれができないから、押さえないで曲を作るんだよね」

コナリ「押さえないっていう選択肢がある!」

――(編集・平田)「天才の発想ですよね!」

長嶋「そうだよね!」

コナリ「他の人にできることができないから、じゃあどうやって自分はやってみようかな、という感じなんですか?」

石川「そうだね、工夫して自分なら何ができるか、それで認めてもらえるならやってみようかっていう感じですね」

コナリ「すごい! 大好きな思想です!」

石川「どんなジャンルでも、これができないと次のステップにいけないよ、っていうのがあると思うんですけど、そうじゃない進み方もあるんじゃないかと思うんですよね」

長嶋「すごいね!」

コナリ「目から鱗が落ちますね!」

石川「いやいやいや!」

――(編集・平田)「石川さんと飲んでるとき、こういう話をいつもしてるんだろうな……」

コナリ「今日は記録してますから!」

つづく

■石川浩司(いしかわこうじ)
1984年、「たま」を結成。担当はパーカッション。89年の「イカ天」出演を機に翌90年にメジャーデビュー。2003年の「たま」解散後も精力的に音楽活動を続ける。

■長嶋有(ながしまゆう)
2002年、「猛スピードで母は」が第126回芥川賞受賞。2007年、「夕子ちゃんの近道」が第1回大江健三郎賞受賞。2016年、「三の隣は五号室」が第52回谷崎潤一郎賞受賞。

■コナリミサト(こなりみさと)
「凪のお暇」が「このマンガがすごい!2019」オンナ編第3位、「第65回小学館漫画賞少女向け部門」受賞、黒木華主演でテレビドラマ化。秋田書店「Eleganceイブ」にて連載中。