~音を楽しむ~
コナリ「昔の彼が趣味でバンドをやってまして、その仲間たちと飲みに行ったんですよ。その人たちが”仕事が忙しくてバンドの練習行くの無理””体力的にももう無理”って会話をしてたんですよ。”本当に辛くて無理なんだな”って思って聞いてたんです。でも”またイベントをやる”ってキラキラした瞳で言い出して。私は誰かと音楽でセッションしたことないから、その『無理』の向こう側の快感を知らないんですよ。知らない感情があるってことが、結構ショックだったんです」
石川「とりあえず楽器1つやってみようよ」
コナリ「それがまた私、キーボードをやったことがあるんですよ」
石川「本当? セッションしようぜ!」
コナリ「それが練習の時に”全然ダメ!”って友達にすっごい怒られたんですよ。それがまたショックで」
石川「ちゃんとしようと思うからいけないんだと思うよ。子供が適当に楽器で遊んでても怒られないよね。そんな感じで、ドラムじゃくて桶とか缶とかその辺にあるもの叩いてやってきたんですよね」
長嶋「石川さんが言うと説得力があるよね」
石川「音楽は文字通り音が楽しめればそれでよくて、プロを目指しているなら違うかもしれないけど、そこまで思ってるんじゃなければ、きちんと楽器を習得できなきゃ音楽をやってはいけないってことではないと思うよ」
コナリ「音楽をちゃんとやってる身じゃないから、そういうものなんだ、このぐらいできなきゃいけないんだって思っちゃった」
石川「漫画も同じだと思いますよ。最初はお絵描きが楽しいなっていう所からスタートして、漫画家になりますよね。でも、プロの漫画家じゃなければ絵を描くことを楽しんじゃいけないってことにはならないからね」
コナリ「う~ん」
石川「何でもそうなんですよね。お芝居もそうだしね」
長嶋「本当にそうですね。クラシックピアノは厳密に基準があってそこを目指して競い合うんだけど、音楽として最初からあったわけじゃないからね」
石川「そうそう、本来は音を出すのが楽しいとか、絵を描くのが楽しいとか、文章を書くのが楽しいとか、最初の楽しい気持ちを忘れちゃうのは結構ダメだと思うな」
コナリ「飲み屋さんとかで、楽器を持ってる人が演奏を始めると、みんなでテーブルを叩いたりして演奏が始まることがあるじゃないですか。私もそれに参加したいんですよ! でも参加したら調律を乱してしまうんではないだろうかと思ってしまって……」
長嶋「気持ちは分かるけど、参加しちゃっていいんだよ」
石川「参加していいし、最低限のことができなかったら踊ればいいんだよ」
コナリ「あ~! なるほど!」
長嶋「踊ればいい!」
石川「それでもうセッションに参加してることになるからね」
――(編集・平田)「去年『「たま」という船に乗っていた』の単行本発売イベントで、石川さん、漫画家さん数人と「まちあわせ」を一緒に演奏する機会があったんですね」
コナリ「漫画家さんが人前で演奏したんですか?」
――(編集・平田)「楽器といってもおもちゃの笛とか、音を鳴らすだけなんですけど、僕も含めてみんな緊張してました。そしたら石川さんが”合わせようとしたらダメですよ。合わせようとすると合わなくなるから、感じるままに鳴らしてください”っておっしゃってくださって」
長嶋「石川さんに言われると勇気づけられるよね」
石川「合わせようとすると合わせた範疇の音楽しかできないけど、はみ出ると広がる可能性があるんだよね。もちろん崩れる可能性もあるけど、広がる可能性は崩れる可能性の中に内包されているというか」
――(編集・平田)「”とにかく楽しんでください”っておっしゃってましたね」
コナリ「楽しみたいですよね!」