「あの時、絶対許さないと思いました」後輩から受けた仕打ち
『オルタナティブ』は 好きな音楽、印象を受けた映画を論じるだけではなく、中学時代の鬱屈とした永野さん自身の話、そして芸人になってから受けた陰湿な仕打ちと、意外な展開を見せる。
「たぶん、芸人さんのライトエッセイ、音楽、映画版みたいなのを期待してたと思うんですけど、内省的なことを言っちゃえってマジで思ったんですよ。ちょっと申し訳ないですけど、自分で書くと暗くなっちゃう。僕が書いたのって暗くなると思うんです、と。自分で書くと、確かになんか、恨みみたいなのが起こったんです。
でも、なんかね、あっちが言ったんだからな、って気持ちになってきて。あんたたちが悪いんだからね、っていうふうになったんですよ。それで、僕の便所の落書きみたいな。あの時、絶対許さないと思いました、という話が入ってきた」
同書には、永野さんが事務所の一部の後輩に「悪鬼」というあだ名をつけられ、永野さんのことを慕っていた後輩に無視するよう強要したり、影響を受けたスタッフや作家に嫌がらせをされた、という話が2ページにわたって改行なしで、すさまじい熱量を持って書かれている。
その箇所がまさしくいちばんグッときた、と伝えると、
「あれは、小包に爆弾しかけたようなものです。D.O.(※永野さんと交流のあるラッパー)とのことを書いてて、そこに後輩からの嫌がらせの話を爆弾のように仕込んだんですけど、出来上がりを見たら違和感しかないですね。
あと、教師の話(※永野さんが幼稚園からエスカレータ式の学校に入ったが落ちこぼれ、中学時代に教師からさまざまな仕打ちを受けたこと)は、お前、マジでなんか「ラッセンのやつ一回見たことあるよ」とか、老後でいま悠々自適みたいに言ってるけど、死ぬ前に緊張感与えるから、というつもりですよね。
正直な話、『オルタナティブ』を出したことで、しっかり気まずくなった人、いますからね。ちゃんとやったら、しっかり気まずくなる。それがなんか美しいなって思えてきた。
自分のこのリアルというか、思ってることを言うと、喜ばれる機会が増えたんです。ラジオだったり、テレビだったり」