本当のお姉ちゃんみたい

 黒崎さんの落ち着きは、家族から来ているのだと思うと納得だ。ところで、『ブギウギ』では出征前、病床に臥せる母(水川あさみ)や、スズ子(趣里)との最後の一連のシーンを含め、印象的な場面を残してくれたが、新人ながら、黒崎さんは言われただけの芝居をしていたわけではないという。

「監督が、ペーペーの私の意見も聞いてくださる方だったんです。それが本当にすごいなと」

――きっちりと演出も芝居も決まっているのかと。

「厳しいイメージがありますよね。言われたことをやる現場なのかなとか。それが割と自分に委ねてくださるんです。自分も意見を出して、一緒に合わせながら作っていくというか。それができる現場で、温かい環境でした。すごく楽しかったです」

――趣里さんとのエピソードも教えてください。

「香川に行って、スズ子姉やんが泣いて私が抱きしめるシーンがありました。あそこは画角を変えて何度も撮影したんです。つまり趣里さんは何回も泣かなければならなかったんですけど、毎回同じ泣き方ができるんです。すごいです。でも泣くって本当に大変なのに、一度私がミスをしてしまって……。さらにもう1回泣くことになってしまったんです。でも“全然大丈夫だよ”と言ってくださって。とにかく優しい方でした」

――カメラの外ではどんな方でした?

「本当のお姉ちゃんみたいでした。香川では毎晩、ご飯をごちそうになりました」

高校時代の苦い思い出

 ところで、まだ年齢も若い黒崎さんだが、これまでに失敗したり挫折した経験はあるのだろうか。訊ねると、「高校時代に少し無責任なところがあったと思います。同じバスケ部を2回辞めているんです」と、苦い思い出を告白してくれた。

「中学、高校とバスケ部だったんですけど、中学校のときは3年間ずっと続けました。それで高校生になっても、まずはバスケ部に入ったんです。ただその時には、映画を勉強したいという気持ちが強くなっていて、バスケも好きだけれど、映画を観たり勉強することに時間をもっと割きたいと思って辞めました」

――明確な理由がありますね。

「それで脚本を書いたりしていたんですけど、意外と時間を持て余すし、友達も離れていくような気がして“もう1回お願いします”と入れてもらったんです。でもその時には、やっぱり力の差が出来てしまっていて、数カ月経ってから、もう苦しいとなって辞めたんです。キャプテンにも友達にも、先生にも、申し訳ないことをしたなと思います」

――そのあと映画の勉強は。

「それはちゃんと続けました」

 しかもそこから今はこうして俳優として大活躍している。友達だって鼻が高いはずだ。

黒崎煌代(くろさき・こうだい)
2002年4月19日生まれ、兵庫県出身。2022年にレプロエンタテインメントの30周年企画「主役オーディション」で5000人の応募者の中から合格して芸能界する。翌年、連続テレビ小説『ブギウギ』にて俳優デビューを果たす。趣里演じる福来スズ子の弟・花田六郎を演じて一躍、高い評価と人気を得る。同年11月に公開された映画デビュー作『さよなら ほやマン』では主人公アキラ(MCアフロ)の弟シゲルを演じ、第78回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞にノミネートされた。
ヘアメイク:親友江
スタイリスト:能城匠 
衣装:EYCK(エイク) [問] EYCK SHOP  info@eyck-tokyo.jp