製作・監督・脚本・撮影・照明・美術・編集などすべてに関与して作品を作り上げ塚本晋也。俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演している。彼の「THE CHANGE」とは。【第2回/全2回】

塚本晋也

 今回の『ほかげ』を実際にどう描くか考えたとき、戦災孤児の目線で、夫と子どもを失って体を売るしかない女性、そして戦争で十字架を背負ったテキ屋の男の物語が浮かびました。

 戦災孤児を演じてくれたのは、塚尾桜雅くんという俳優です。オーディションのときは小学1年生でしたが、すでに俳優としての責任感をしっかり持っていましたね。彼との撮影で心がけたのは、子どもに対してしゃべるのではなく、一人の俳優として接しようということ。

 というのも、ある年齢……物心がつく3歳くらいまでは、お芝居ということを意識するのが難しいので、大人が何か作用して、その場面に合ったリアクションを引き出すという演出をせざるを得ないんですね。でも、ちゃんと自意識ができたあとは、変に甘やかさず、大人の俳優と同じように扱ったほうが良いと思ったんです。彼は、僕の予想をはるかに超えた強いまなざしで、作品の軸を作り上げてくれました。

 家族を失った女性は趣里さんが演じてくれました。彼女は今、NHK連続テレビ小説ブギウギ』で、戦中戦後を生きるヒロインを演じていますが、それとはまったくの別人! 憑依型の女優さんだなと、改めて感心しています。

 片腕が動かない男には、森山未來さん。ダンサーでもある彼は、腕が動かないことを、素晴らしい身体表現で見せてくれました。

 ……とここまで、役名を言っていませんが、意図的に役名をつけなかったんです。男については、後半で一度だけ名前が出てくるのですが、そこで「ああ、虫けらみたいに扱われた人たちでも、ひとりひとりちゃんと名前があるんだ」と思ってもらえたら……と考えていたんです。ただ、撮影に入ってから気づきました。これは不便だ、と(笑)。