「身が引き締まった」あの出来事

 処分はくつがえらなかったものの、気持ちを切り替えた加藤選手は、その後、混合ダブルスにドイツの選手と組んでエントリー。見事に優勝をはたす。そのタフさには驚かされるが、加藤選手にとっては、その後のことのほうが重要だったようだ。

「試合が終っていろいろな国に移動しているとき、行く先々で声をかけていただいたんです。あのようなことがあって、海外で応援していただけるファンの人がいることがわかったり、増えたことはありがたかったです。
 もう二度とこのようなことが起きないようにと心がけていますし、なによりペアや応援してくれる人たちのために頑張らないとって、より身が引き締まりました」

 選手として大きな変化があった2023年の全仏オープン。実は加藤選手は4大大会の中で、全仏が一番、好きなのだそう。

「ローランギャロス(全仏オープンの会場)という場所自体が好きですし、クレイコートというところも好きなんです。あとはパリの街並みも好きですし、一番、結果を残したい大会なんです」

パリオリンピックへの思い

「ヨーロッパを遠征しているとフランスもですが、アジア人が活躍したり、ダブルスだけの選手が活躍することってとてもアウェーを感じることが多いんです。雰囲気もほかの大会と違うんですよね。英語じゃなくてフランス語で敢えて話されているなっていうのも感じる時はあります。

 全豪オープンとか、地理的なこともあってアジア人には優しかったりするんですけど、それでも全仏オープンで勝ちたいという気持ちが強いんです。やっぱり自分のフットワークやテクニックをいかすことができるのはクレイコートだと思うので、クレイコートの全仏で勝ちたいんですよね」

 試合の合間には、街で買い物をしたり、食事に出かけることも多いというフランス。そのフランスでは、2024年の今年、オリンピックが開催される。

「オリンピックも全仏オープンと同じ会場で行われるので、自分の好きなコートに立ちたいという思いは強いです。前回の東京オリンピックに出られなかったぶん、次こそはという気持ちも強いですし、今年の前半、ランキングをしっかり上げていきたいと思っています」

 まずは1月15日から始まる全豪オープン。その先にはパリオリンピックが待っている。クレイコートの上で躍動する加藤選手の姿に期待したい。

■加藤未唯(かとう・みゆ)
1994年京都生まれ。7歳でテニスを始め、2006年に全国小学生大会ベスト8。その後、立命館宇治中学校に進学し、11年に全豪オープン・ジュニアダブルスで準優勝の快挙を成し遂げる。13年にプロ転向。17年の全豪オープンでは、日本人ペアで史上初となるベスト4まで勝ち上がり、全仏オープンではシングルスで本戦入りする。23年の全仏オープン女子ダブルス3回戦で失格処分を受けるも、直後の混合ダブルスで優勝をはたした。24年WTA女子ダブルスランキングは26位(24年1月現在)。