「視座が高くなりすぎて差異が見えなくなってしまった」

――たいへん興味深い話です。どうして地上に戻ってこられたんですか?

「やっぱり地上のほうが正しいと思ったんです。心が平穏すぎて、何も感じなくなっていた。極楽すぎると悲しくもないんですよ。何が起きても悟りの境地に達してしまって」

――こっちが正しい、と戻してくれたという具体的な出来事は秘密でしょうか……?

「そうですね(笑)。ただそうした出来事があって分かったことがあります。そのときは、ある種の自分の答えみたいなものに行きついて、それは悟りのようなものだったんですけど、自分としては平穏だったんです。こうすればこんなに幸せになれるんだと思って、何物にも動じなくなっていました。
 でもそれって、あとになって結果的に振り返ってみると、視野が狭かったんだと思います」

――自分としては平穏だけれど、視野が狭かった。

「要は、みんなも自分と同じだと思ってしまった。すごく引いた目線になって、みんな同じに見えてしまったんですね。近くで見るとひとりひとり全く違うのに、視座が高くなりすぎて差異が見えなくなってしまった。でも、その差異こそが大事なんだということに、気づく出来事があって、戻ってこられたんです」

「幸福すぎる極楽」からの帰還という、非常に興味深い話をしてくれた橋本さん。表現者として得がたい体験を経て、ますます橋本さん自身の厚みは増している。

 

はしもと・あい
1996年生まれ、熊本県出身。中島哲也監督の『告白』(10)に出演し注目を浴びる。続く吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』(12)などで第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)で圧倒的な人気を獲得する。近年の主な出演作は、映画『PARKS パークス』(17)、『ここは退屈迎えに来て』(18)、『私をくいとめて』(20)、『ホリックxxxHOLiC』(22)など。『ザ・フラッシュ』(23)では実写吹き替え声優に初挑戦した。ドラマ出演はNHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)、「家庭教師のトラコ」(22/NTV)、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」(23)、「アナウンサーたちの戦争」「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(23/NHK)など。公開待機作に『ハピネス』(5月17日公開)がある。10月には神奈川県民ホール開館50周年記念オペラ「ローエングリン」でエルザ役を務める。俳優・モデルの他、音楽活動や写真、コラム連載をもち幅広く活躍中。
ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:清水奈緒美

●作品情報
映画『熱のあとに』
監督:山本英
脚本:イ・ナウォン
出演:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生、坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司
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配給:ビターズ・エンド 
公開:2月2日(金)