迷いが生じたときに思い出すやなせたかしさんの言葉

 一方で、戸田さんが『アンパンマン』を通じて親子に与えた影響も同様ではないだろうか。新米ママやパパが物心ついた子どもと一緒に初めて鑑賞するアニメとして、親になって初めて真剣に観る『アンパンマン』は、学びの宝庫だ。

 たとえば、2014年公開の劇場版シリーズ26作『それいけ!アンパンマン りんごぼうやとみんなの願い』は、原作者のやなせたかしさんが、東日本大震災からの復興への思いを込めた絵本が元となっており、「みんなで力を合わせれば、どんな困難だって乗り越えられる、みんなの願いは届く」というメッセージが込められているという。

 戸田さん自身も、迷いが生じたときなどにやなせさんの「人が喜ぶことをしなさい」などの言葉に励まされた経験を持つ。

「親子で一緒に映画を観て、一緒に“世界では、こういうことがあるんだよ”ということをちょっとでも知ってもらえればいいな、って。今はひとりひとりスマホで動画を見たり、ひとりでなんでも見られる時代なので、あえてこういった場所に来てみんなで共有して、会話のきっかけになってくれたらいいなと思うんです。“お母さんはこのシーンで泣いたけど、あなたはどうだった?”とか。同じものを同じ時間に観ることの楽しさを、味わってほしいですね」

戸田恵子(とだ・けいこ)
1957年9月12日生まれ、愛知県出身。1975年に「あゆ朱美」の芸名でアイドル演歌歌手デビュー。演出家の野沢那智に声をかけられ77年より劇団・薔薇座に入団。いくつものミュージカル作品で賞を受賞する。声優活動のスタートは79年『機動戦士ガンダム』マチルダ・アジャン役から。アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(三作目)の鬼太郎、『キャッツ・アイ』の瞳、『きかんしゃトーマス』のトーマス、『それいけ!アンパンマン』のアンパンマンで国民的声優に。洋画の吹き替えではジュリア・ロバーツやジョディ・フォスターでおなじみ。1997年に三谷幸喜脚本作品『総理と呼ばないで』(フジテレビ系)で連続ドラマデビュー。名バイプレイヤーとして毎クール活躍。昨年は『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ)を含む3作品に出演した。