どっぷりハマっていった舞台の世界

「新宿の紀伊國屋ホールに呼ばれたんです。そこで『熱海殺人事件』を観たの」

 当時は、『熱海殺人事件』を書いたのが、つかこうへいであることすら知らなかった植草さん。観劇に誘ってもらった三浦さんが、初演を務めた舞台にもかかわらず、真顔で「これ観るんですか?」と、つい大先輩に聞いてしまったという。

「観ていてもチンプンカンプン。若かったこともあって、まったく内容がわからない。セリフの応酬も激しいし、ついていけないわけ」

 わからないなりに舞台を観ていると、植草さんはある点に気が付いた。

「舞台上での言葉の飛び交い方が、三浦さんと『さすらい刑事旅情編』を撮影しているときのセリフの掛け合いのタイミングと同じなんです。“舞台を観て演技を覚えろ”って、三浦さんからのメッセージだったんでしょうね」

 以後、植草さんは舞台の世界へどっぷりハマっていくことになる。

「(KinKi Kidsの)光一(堂本光一)が主演する舞台、『Endless SHOCK』に2008年と09年に出たんですけど、その後も『SHOCK』の観劇を続けています。自分が演じた役を他人が演じているのを観るのは刺激にもなりますし、自分に足りないものがわかりますから。三浦さんが初演後も『熱海殺人事件』を観劇し続けていたのも、そういう理由だったからなのかもしれません」

 00年5月に46歳の若さで、この世を去った三浦さん。死の半年ほど前まで舞台に立ち続けた名優からの教えを胸に、植草さんは今日も舞台に立ち続ける。

植草克秀(うえくさ・かつひで)
1966年7月24日生まれ、千葉県出身。O型。1985年、東山紀之、錦織一清と共に少年隊として「仮面舞踏会」でレコードデビュー。愛称はカッちゃん。TBS系ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』では第2シリーズ~第9シリーズまで約15年間出演。2020年12月、ジャニーズ事務所を退所。21年1月、新会社「2steps」を設立。