在ペルー日本大使公邸占拠事件の取材中に「帰ってこい」
それ以降、ものの見事に情報番組からは外されました(笑)。さすがに、ちょっと不安だなと思っていたら、報道局から「『スーパーニュース』のリポーターをやってくれないか」と声をかけられたんです。
「やりたいです!」と報道部に移籍して、すぐに起きたのが、在ペルー日本大使公邸占拠事件。急遽ペルーに飛んで、防弾チョッキに身を包み、現地からのリポーターを1か月くらいやっていました。
そうしたら、ある日、会社から「帰ってこい」と連絡が来たんですね。「いえ、まだ何十人も人質がいるのに帰れません。最後まで見届けたいです」と答えると、「4月から新しいニュース番組が始まって、きみがメインキャスターだ」と告げられました。
それまで夕方のニュースは露木(茂)さんがやっていまして、その下にはメインを務める先輩アナが3人もいた。だから、いったん断りました。もちろん、フジテレビには、私が三段飛ばしでメインをやっても妬んだりする先輩はいません。みんな「よかったな」と喜んでくれる人たちばかりです。
結局、悩んだ末、私は『FNNニュース ザ・ヒューマン』のメインキャスターを引き受けました。もし、あのとき……キャスターからリポーターに戻ってくれと言われたときに「分かりました」と応えていたら、この道はなかったと思います。
上司に刃向かってでも我を通したことが逆に功を奏して、新しい道が開けた。やはり、羅針盤の言うことに間違いはありませんでしたね(笑)。
笠井信輔 かさい・しんすけ
1963年4月12日生まれ。東京都出身。1987年、フジテレビに入社し、アナウンサーとして『とくダネ!』『バイキング』など、情報や報道を中心に多くの番組を担当。2019年10月、フジテレビを退社し、フリーアナウンサーに。同時に「悪性リンパ腫」のステージ4であることを公表した。現在は、さまざまなメディアでがん知識の普及活動を行いながら、アナウンサーとして多方面で活躍している。
■『がんがつなぐ足し算の縁』
1540円 中日新聞社
笠井さんの4か月半にも及ぶ闘病の記録に加え、入院生活や抗がん剤治療の実体験から得た「病と向き合うアドバイス」がつづられている。新聞連載時に生まれた、読者とのつながりの物語も収録。患者はもちろん、家族や友人たちの支えになる一冊だ。