虚構の中に自分を置いているときが一番自分らしい

――最初に認めてもらった瞬間というのは、たとえば、オーディションに受かったときでしょうか。

「認めてもらえたとはっきり感じたのは、作品で初めて演技をしたときでした。初めて演技をして誉めてもらった。その瞬間です」

――監督にですか。

「そうです。“すごくいいお芝居だった”と言ってもらえて。あれは五反田駅のルノアールだったかな。喫茶店でのシーンでした。初めての演技ですから、たどたどしかったはずですけど、“すごく良かったよ”と。
 たぶん監督にしてみれば、何気ないひと言だったかもしれません。でも自分のやったことが、仕事が、初めて認められた瞬間でした。オーディションのときも、何か誉められたと思うんです。ただ、演技を仕事としてやって、“認められた”ことがすごくうれしくて」

――その作品というのは。

「緒形拳さんの主演で、2夜で放送されたTBSのドラマ(※)です。サスペンスもので、私は殺されちゃう役。犯人は最初から悪い気持ちで近づいてきていたけど、私は何も知らなくて。ちょっと恋心のようなものがあったのか、ドキドキしながらお茶を飲む、みたいな短いシーンでした」

※大山勝美氏の演出で1985年2月に放送された『原島弁護士の愛と悲しみ』第22回ギャラクシー賞選奨

――細部まで覚えているんですね。大きな出来事だったことが伝わってきます。斉藤さんにとって表現することは、やはり人生において大きな部分を占めていますか?

「私は演技をしていたり、歌を歌ったりしているときの自分が、生き物としての輪郭が一番はっきりしている感覚があるんです」

――生き物としての輪郭が一番はっきりしているとは?

「それ以外の自分は、なんとなくぼやけているというか。自信がなかったりして。大して面白くもないし。“自分って何なんだろう”と、いつも思ってるんですけど、演技してたり、歌を歌って集中しているときは、一番自分らしくいられるんです。
 虚構の仕事なのに、その中に自分を置いているときが、一番自分らしい。不思議ですよね。だから本当にこの世界に入れて良かったし、表現をしていない自分というのは考えられないんです」

 そんな斉藤さんが生み出す歌や芝居だからこそ、私たちは引き込まれるのだろう。

さいとう・ゆき
1966年9月10日生まれ、神奈川県出身。1984年、「少年マガジン」第3回ミスマガジンでグランプリに選ばれる。翌年、「卒業」で歌手デビュー。同年テレビドラマ『スケバン刑事』で初代・麻宮サキを演じ、一世を風靡した。1986年には連続テレビ小説『はね駒』でヒロインを務める。以降、数多くの作品に出演し、支持され続けている。近年の主な出演作に映画『記憶にございません!』『蜂蜜と遠雷』『最初の晩餐』『子供はわかってあげない』、ドラマ『大奥』(NHK)『フィクサー』(WOWOW)『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』『メトロノーム・デュエット』など。『三度目の殺人』ではブルーリボン賞助演女優賞を受賞した。

映画『マッチング』
脚本・監督・原作:内田英治
共同脚本:宍戸英紀
主題歌:Aimer
出演:土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ、杉本哲太、斉藤由貴
(C) 2024『マッチング』製作委員会
配給:KADOKAWA 
公開:2月23日(金・祝)