大学までは行ってくれと説得され……

 親御さんにとって、息子二人が続けて「芸人になりたい」と言ってきたら、芸能家族じゃない限り困惑してしまうだろう。

「当時、親は相当悩んだみたいで、“ちょっとカンベンしてくれ”って言われまして。それで、とりあえずは大学まで行ってくれと説得されたんです。大学に行ったら東京まで行くわけだし、東京へ行ったら好きなことをやって良いからって言われたんです」

 スカウトされるなんて、まさに千載一遇のチャンス。渡りに船とも思えるが、そこで親は福岡吉本に断りを入れた。

「親はすごく冷静だったんですね。でも、いま考えると、僕は元々千葉出身だから、佐賀弁自体もちょっと嘘っぽいところがあったんです。要するに純粋な九州弁を喋れないわけですよ」

 話芸はその言葉の通り、話術によって楽しませる芸であり、小学生の時に佐賀に引っ越した塙さんからしたら、純粋でない佐賀弁での優勝はどこかで納得がいかないところがあったのかもしれない。

「それも友達が作ったネタでツッコミで優勝したんで、正直、僕自身もあんまり嬉しくなかった……というと語弊がありますけど、そんな感じだったんですね。ネタがなんか話題性だけで優勝したんであんまり面白くはなかったんです。僕が組むんだったらボケをやりたいなって気持ちがずっとあったということもあって、相方の子とずっと一緒にやるのは厳しいな、嫌だなって思ったんです」。

 結果として、塙はコンビの解散を決意した。しかし、相方はそんな塙の考えに納得がいかず、何度も説得を試みたという。だが、塙はその思いを変えることなくコンビは解散を迎えた。

「相方はニシクボ君って言うんですけど、ニシクボ君にはほんと悪いことしたなって思うんですけどね」。

 そう神妙に語る塙さん。しかし塙さんの中では、”芸人”になる夢を諦めるという考えには至らなかった。ちなみ、塙さんのひとつ年上の兄貴・尚輝さんというのは、25万枚を売り上げ大ヒットとなったシングル『佐賀県』を歌い、ミュージシャンの顔も持つタレントのはなわさんのことである。

■塙宣之(はなわ・のぶゆき)
1978年3月27日、千葉県生まれ。A型。T173㎝。2000年に大学の後輩・土屋伸之と漫才
コンビ「ナイツ」を結成。2003 年、漫才協団(現・漫才協会)・漫才新人大賞受賞。2008
年、お笑いホープ大賞THE FINAL優勝、NHK新人演芸大賞受賞。2008~10年、3年連
続で「M-1グランプリ」に3 年連続で決勝進出。2022 年度、第39 回浅草芸能大賞 大
賞受賞。2019 年に出した著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1 で勝てないのか』が発行部
数10万部を突破した。近著『劇場舎人 ずっと売れたい漫才師』(KADOKAWA)が発売中。 

『漫才協会THE MOVIE~舞台の上の懲りない面々~』
監督:塙宣之
出演:青空球児・好児 おぼん・こぼん ロケット団 宮田陽・昇 たにし U字工事
づっち 大空遊平 はまこ・テラこ 錦鯉 ビートきよし(特別出演) 爆笑問題(友情出
演)サンドウィッチマン(友情出演)
ナレーション:小泉今日子/ナイツ 土屋伸之
3月1日(金)より全国ロードショー
配給:KADOKAWA
ⓒ「漫才協会 THE MOVIE ~舞台の上の懲りない面々~」製作委員会