帯広の図書館での“妖精”との出会い

 いまでも覚えていることがある。原田さんがいつものように図書館で本を読んでいたときのこと。ひとりの老人が近づいて来て、こう話しかけたという。

「横山秀夫って知ってる? めちゃくちゃ面白いよ」

 上毛新聞の記者を12年間務めたのち、’91年に『ルパンの消息』(光文社)でサントリーミステリー大賞佳作を受賞しデビューした横山秀夫は、直木三十五賞にノミネートされた『半落ち』(講談社)や山本周五郎賞候補となった『クライマーズ・ハイ』(文藝春秋)をはじめ、『臨場』(光文社)や『64』(文藝春秋)など映画化・映像化作品も多いベストセラー作家だ。

「いきなりそう言われて、“えっ、そうなんですか?”って。“あの人はね、新聞記者だったんだよ。だからめちゃくちゃ面白いんだよ”と言って、ふらっとどこかに行ってしまったんです。そこで横山さんを知って初めて読んでみたら、おじいちゃんが言うとおりめっちゃおもしろかった。おじいちゃん、なんだか図書館の妖精みたいだな、と思いました」

 思いがけない出会いにより、さらにのめりこみ、本は生活に欠かせない必需品となった。そんな日々のなかで思い立ち、シナリオを書き始めるのだ。

「結婚してすぐのころ、まだ東京にいたとき、夫に言われたんですよ。“一生続けられるような、趣味でもいいしボランティアでもいいし、仕事につながることでもいいから、そういうのを探してみたら?”って。なぜそんなことを言ったかといえば、料理研究家の方の話を雑誌で読んで、なにか感銘を受けたようでした」