『光る君へ』の役作りでロングヘアに
映画『春画先生』では、プレイボーイぶりに拍車をかける短髪のセンターパートヘアだが、現在の柄本佑さんは、ナチュラルなウェーブが美しいセミロングヘア。NHK大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長を演じるにあたり、伸ばしているという。
「1年以上伸ばしているんです。だから僕、自前でちょんまげ結っているんですよ」
ーー自前で! すごいですね。
「撮影が終わったら切ってしまうんですけどね」
役柄によってまったくことなる姿かたちに変化する柄本さんが、『春画先生』で意識したのは、独特のセリフ回しのとらえかただった。
「僕が演じた辻村という編集者は、セリフ回しも作り上げられたものだったりして。フィクション度の高さが非常にある台本でした」
そんな柄本さんがもっとも印象に残っているというセリフは、内野聖陽さん演じる春画先生のもの。江戸時代中期の画家・円山応挙の「雪松図屏風」を熟視しながら、北香那さん演じるヒロインに、感動含みで解説するというシーンだ。
「“積もり積もった雪と思った雪の白さは、実はただの紙の白さ”という、無から有を生み出すみたいなセリフがあるんですが、あのセリフって非常に実感がこもっていて。あのセリフは誰かの言葉を借りたんじゃなくて、絶対に塩田(明彦)監督の実感であり、発見だと思うんですよね」
一方からの見方だけじゃなく、多面的な見方もある
「その発見ってすごく大きくて。このセリフに、いろんなものの見え方が変わる感覚が集約されている気がするんです」
画面いっぱいに「雪松図屏風」が広がり、すごみすら漂うこのシーンを、「足し算ではなく、引き算によって豊かなものにしている」と表する柄本さんに、「この作品に出演する前後で、なにかご自身に変化はありました?」と聞いた。
すると、そのあとに登場する、喜多川歌麿の男女が接吻を交わしながら体を重ねる春画について言及しながら、教えてくれた。
「この女性のお尻も、肌の色を描かずに紙の色なんです。こんなにお尻の立体感があるのに、何も描いていないなんて、すげえなあっていう。むしろ、描きすぎると平面になってしまうのかもしれない。描かないことで奥行きを出すというのが……そういうことは、いろんなことに通じていると思うんです。
そんなふうに、春画を通して、一方からの見方だけじゃなく、多面的な見方もあるのだな、ということを実感しましたね」
奥深き春画の世界、柄本さんとともに堪能したい。