自分を大きく変えた子どもの存在
つねに作品と真摯に向き合う柄本佑さんの「THE CHANGE」は、仕事にかんすることではないかと想像していると、その予想は見事に裏切られた。
「人生が変わった瞬間……やっぱり結婚したときと、子どもが生まれたときですね」
2009年、「第18回あきた十文字映画祭」で出会い、その2年後に映画『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で共演、以降親交を深めていった女優の安藤サクラさんと結婚したのは、2012年3月のこと。
「結婚するまでは、“あれもやりたい”とか“これもやれる”とか、いろんな可能性があるなと思っていたけど、結婚してまず漠然と思ったのは、“自分は、この役者という仕事を一生続けていくんだろうな”ということでした」
ーー結婚がきっかけで、そう思われたんですね。
「そんなに、確固たる決意! みたいなものじゃないですよ。映画を撮りたいとか、そういう夢は叶えるにしても、きっとこの仕事は一生続けていくんだろうな、と」
ーーお子さまが生まれたときに訪れた変化は、どんなものでしたか?
「やっぱり、“自分が一番じゃなくなる”ということですかね。自分が一番じゃないって、すっげえイイんですよ。楽です。娘が1番で、家族が2番で、自分はもう3番目くらいになってくると、それはそれで気持ちよさや明るさがあるというか、人に対しても」
ーー“自分が一番”だと、それによるストレスがかかるということですか?
「わからないですけど、たとえば、“自分が一番”だったときは見られていることばかり気にしちゃって、むしろ無口で憮然としてるみたいな。でもいまは、“俺、こんなにおしゃべりだったの!?”くらいに変わりました」
10代から20代前半の頃なんかもう、ほんとうに現場で一言もしゃべらないし
ーーキャラ変したんですね!
「いやすごかったですよ。僕が10代から20代前半の頃なんかもう、ほんとうに現場で一言もしゃべらないし」
ーーえええ!
「自意識過剰ですよ。それから年齢とともに徐々に変化したこともありますが、やっぱり決定的なのは、娘が生まれたことだったと思います」
『第46回 日本アカデミー賞』授賞式には、夫婦で出席。柄本さんは『ハケンアニメ!』で優秀助演男優賞を、安藤さんは『ある男』で最優秀助演女優賞を受賞した。
安藤さんが受賞スピーチで、声をつまらせ撮影と子育ての両立に対する葛藤を吐露、「今は悩みつつ家族で会議しながら、みんなで協力し合って、また頑張れたらいいな、大好きな現場に戻れたらいいなと思っています」と語りながら柄本さんに笑顔でアイコンタクトを送ると、柄本さんがピースサインを贈るという一幕が映ったことが、話題となった。
ーーあのシーンはたいへん話題になりました。
「ちょっと恥ずかしいですけどね」
ーー恥ずかしいんですね。
「恥ずかしいよ! 恥ずかしい」
ーーまわりの人からも反響はありましたか?
「反響……いや……僕のまわりはそういうのを見ている人があまりいないから、この情報はそんなに届いていないのかもしれないですね」
ーーそうでしたか(笑)。
「まあでも、恥ずかしいは恥ずかしいです」
はにかむ柄本さんからは、隠しきれない人柄のあたたかさがにじんでいた。
■えもと・たすく
1986年12月16日生まれ、東京都出身。オーディションを経て映画『美しい夏キリシマ』(2003年)で主演デビューし、第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。2018年には「素敵なダイナマイトスキャンダル」「きみの鳥はうたえる」などに出演、第73回毎日映画コンクール男優主演賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほかに輝いた。2023年は監督作の短編連作集『ippo』、そして『春画先生』が公開、冬には『花腐し』が控える。