金原ひとみが考えるMe too問題

 20年間、作品を書き続ける中で、さまざまなテーマを自分の中で昇華させ続けてきたが、ちゅうちょなく書けるものと立ち止まってしまうものがあるという。

「母性幻想とかコロナ問題については、特にちゅうちょすることなく書かなければと反射的に書き始めましたが、震災とかMe too問題については整理が遅かった。特にMe tooについては乗り切れずにいました。女性が差別、搾取されることに関しては深刻な問題として考えてきましたが、自分自身もかつては問題を無視して、無自覚に加担してきたのではないかという罪悪感もあり、声を上げることに抵抗がありました。
 女を売りにしたわけじゃないけど、利用してきたところはないだろうかという疑いも、自分では持っています。だから、しっかりと距離を置いて、客観的な複数の視点を自分の中で確立できるまで待っていたという感じです」

 だが自分自身が親になり、成長していく娘たちを見ていると思うところがあった。小説の新人賞選考委員を務める立場にもなり、「四の五の言わずに行動しなければ」と責任感にも似た気持ちが生まれた。

「自分が言わないといけないんだと、ここ数年、ようやくそういう気持ちが芽生えてきて、一昨年から文芸誌で『YABUNONAKA』(文藝春秋)という小説を連載しています。当事者でありながら俯瞰(ふかん)して見なければいけない問題だし、書いたからといって自分の立場がはっきりしたわけでもありません。模索し続けるために小説を書いている気がしますね」

 常に模索し続けてきた人生だったのかもしれない。