“キング・オブ・ポップ”を目指したい

 甘利田が給食を完食するシーンは清々しくもあるが、あの見事なまでの食いっぷりを見せるうえで、撮影前は何も口にはしなかった。トータルで、ものすごく動く現場だったので、体力的にも精神的にも持たせるために、体重を10キロ落としてから現場には入ったそうだ。

「そこまでしてでもやり遂げたいというのは、僕の中でお客様に楽しんでいただきたい、今作品は大衆に向けてのエンターテイメントを創るという事を目標に掲げているからなんです。キャリアを積んでいくとニッチな方に行きがちになるんですけど、コロナ禍を経て、改めて“キング・オブ・ポップ”を目指したいという気持ちが根源にできました。唯一無二の世界観で骨太のしっかりとした社会派のメッセージや人間臭さといった”映画の背中”を見せたいという意地で、撮影中は毎日を紡いでいったところがあります」

甘利田幸男の給食シーン 🄫2024「おいしい給食」製作委員会

 撮影に常に真摯に向かう市原さん。あるインタビューでは「昨日の自分を越えていくのがモットー」と語っていた。

「精神的な面になると思うのですが、結局は自分というものが判らないんです。色んなものに感化されながら、毎日自分を壊して、毎日作っていきたいんです。おそらく、この先同じ質問をされたとして、昨日と今日と明日、全部が違う答えであるのが当たり前だと思うんです。そういう人間でありたいんです」

 “自分を越えること”は難しい、とはよく言われるし、人は生きていれば、そう実感することは多い。

「毎日思うことがあります。“自分って何だろうな”と。撮影というのは竜宮城みたいなもので、いざ現場に入って行くと外の情報などがまったく遮断されます、何か月も。だから終わって戻ってくると、時間が止まったかのような感じに陥ってしまい、何をしたらいいのかも判らなくなる。そもそもが毎日毎日その時の役のためだけに生きていると、その期間どうやって自分自身が過ごしてきたかすら判らなくなることもあるんです。
 模索しているうちに、また次の新しい現場に入っていくとまた自分というものが何なんだろうって……そんな思いがどんどん増えていくんです。なので、腹をくくって、自分なりに必死に現場にしがみついて学ばせていただき、日々を通過点として、生涯未完成であると墓に入るまで色んなことを経験していければ良いと思っています。墓に入ってから、ああ良い人生だったなとあの世で思えれば、それで良いかなと考える様になってきました」

市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。小学5年生の時にスカウトされ芸能界に入る。2001年、映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演を務める。2004年、ドラマ『ウォーターボーイズ2』で連ドラ初主演を果たし、同年に公開された映画『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近作にはドラマ『正直不動産』シリーズ、や舞台『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』がある。近年は写真家としても活動している。6月~は主演作品・WOWOWにて『ダブルチートseason2』の放送開始。

【作品情報】
映画『おいしい給食 Road to イカメシ』
https://oishi-kyushoku3-movie.com/
監督:綾部真弥
出演:市原隼人、大原優乃、田澤泰枠、栄信、石黒賢、いとうまい子、六平直政、高畑淳子、小堺一機
5月24日㈮より東京・新宿ピカデリー ほか全国公開
配給:AMGエンタテインメント
🄫2024「おいしい給食」製作委員会