歳を増すごとに人間としての深みが濃くなっていく感のある俳優・映画監督 奥田瑛二。1980年代のトレンディドラマの代名詞ともいえる『男女7人夏物語』をはじめ、『海と毒薬』、『千利休 本覺坊遺文』、『式部物語』などの海外での評価の高い作品にも出演。93年に公開された映画『棒の哀しみ』で国内で多くの賞を受賞し、その印象が強いこともあってか、アウトロー的なイメージが強い。一方では映画『少女 an adolescent』、『るにん』などで監督を務めるなど多岐に渡り活躍続ける奥田にとっての「THE CHANGE」とは──?【第2回/全4回】
最新出演作『かくしごと』で認知症の老人・孝蔵を演じた奥田さん。白髪で無精ひげでもたつく感のある動きの孝蔵と、いま目の間にいるダンディで矍鑠な様の奥田さんとは明らかに違う。撮影前には役作りのために実際にグループホームを訪れた。
「知人の紹介でね、富山にあるグループホームを二か所訪れましたね。見学……というより観察させていただいて。男性と女性の場合とでは違いとかあるのだろうかと思って、一緒の部屋に入れてもらって話してみたり。ご飯も一緒に食べたけど、その時は食べることよりもその所作、動きをニコニコしながら観察していたら、完全に打ち解けちゃってね。向こうもいちいちどこから来たのって訊かないわけ。それが逆に良かったりしてね。仲良くなればなる程ずっとくっついてくる人もいました。この人たちの共通点はどこにあるのかなって思ったから、ケースワーカーや介護士の人にも色んな質問をしましたね」
聞かされた話の中には衝撃的なのもあった。
「ホームから脱走する方もいるそうで、あるおばあちゃんは20キロ先で見つかったそうなんです。それも、そこまで徒歩で行ったらしい。それで、脱走した先でたまたま訪れた家のチャイムを鳴らして、家主がドアを開けて尋ねると“私、どこにおるか判らん。判らんけど、ここ押した”って答えたそうなんです」