芸名をつけてくれたのは同期

 タツヨさんだからできること。たとえば、着付け。

「舞台に出るのに浴衣を着ていた人がいたんですけど、見ると襟の合わせ方が左右逆だったんですよ」

 着物は、男女問わず相手から見て右側の衿が左側の衿の上に重なるように着る。左を前にするのは死人だけだ。だから「左前」は縁起が悪いとされる。

「私、たまたま着付けの講師もやっていたもんですから直してあげることができました。なんでもやっておけば役に立つことがあるものですね」

 普段は控え目なかわいいお年寄りなのに、いざとなればバシッと手伝ってくれる。こんな人なら周囲に大事にされて当然だろう。

 “おばあちゃん”の芸名をつけてくれたのも、実は同期だ。

「授業でネタ見せをする時、ホワイトボードに芸名を書くように指示されたんですけど、私、まさか自分が芸人になれると思っていなかったから何も考えてなかったんですよ。それで、困っていたら誰かが“おばあちゃんだから、『おばあちゃん』でいいじゃん!”って。それはいいなと思って、あっさり決まりました」

 なんとものんきな話である。

 そして、のほほんとしたのんきさこそおばあちゃん最大の武器なのだが、それが培われてきた人生は決してのんきなものではなかった。

(つづく)

おばあちゃん
1947年2月12日生まれ、東京都出身。東京NSCに24期生として入学し、2019年4月に72歳でデビュー。2023年6月には「神保町よしもと漫才劇場」の過去最高齢となる76歳で劇場所属メンバーとなる。2024年3月には『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』 を上梓した。

 

【作品情報】
『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』 (発行:ヨシモトブックス 発売:ワニブックス)
芸人になった理由や活躍するまでの紆余曲折について、懸命に生きてきたおばあちゃんの人生訓が詰まった初の書籍。

ひまが

 

 

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