影響を与えた作品は悪を成敗する『必殺仕事人』

 そもそも任侠モノを見るきっかけは、と尋ねると、

「幼いころから好きだったのは、テレビドラマだと『必殺仕事人』(テレ朝系)とか古谷一行さんの『金田一耕助シリーズ』(TBS系)だったんですね。女の子が好きそうな『コメットさん』(TBS系)とかファンタジーものじゃなかったんですよ(笑)。
 なぜかというと、自分でもうまくは言えないんですけど、当時から、いわゆる“成敗もの”が好きだったんじゃないかと思うんです。例えば、時代劇の『桃太郎侍』(日テレ系・テレ朝系)とかもそうですけど、結果的に世の中の不条理や自分のままならないものに対してキチっとカタをつけるというのが、きっと好きだったんだと思います。登場人物が覚悟を決めて何かに挑む……そういう姿は、自分の中のヒーロー像のひとつだったと思います」

 そのヒーロー像を具体化したのが、ブルース・リーだという。柚月さんが初めてブルース・リーを見たのは、テレビで放映された映画『ドラゴンへの道』だった。イタリア・ローマを舞台に地元の地上げ屋(ギャング)の執拗(しつよう)な嫌がらせに、中華レストランの店主の従兄、タイ・ロンが敢然と立ち向かう物語。

 ブルース・リーは主演のタイ・ロンを演じただけでなく、監督、脚本、製作、音楽監修、武術指導の6役を務めた作品だ。クライマックスのコロッセオでの、アメリカ人武道家・ゴードンとの一対一の死闘はカンフー・アクション映画史、屈指の出来でいまも語り草になっているほどだ。

「たまたまでしたが、テレビで放送していたのを見たんです。ブルース・リーが勇気を持って立ち向かっていく姿が、子ども心にも好きだったんでしょうね。特に、ラストでブルース・リーが去っていくシーンのシルエット姿が“うわっ、カッコいい。もうたまらん!”みたいな感じ(笑)」

 ブルース・リーの話になると、テンションが一段と高くなった柚月さん。ちなみに柚月さんにとってブルース・リーは「初恋の人」だったそうだ。

柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)
1968年生まれ、岩手県出身。‘08年『臨床真理』(宝島社)で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。’13年『検事の本懐』(宝島社)で第15回大藪春彦賞、‘16年には『孤狼の血』(KADOKAWA)で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編賞部門受賞)。同年には『慈雨』で「本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10」で第1位を獲得した。他の著書に『盤上の向日葵』(中央公論新社)、『合理的にあり得ない』(講談社)、『月下のサクラ』(徳間書店)、『教誨』(小学館)、『ミカエルの鼓動』(文藝春秋)、『風に立つ』(中央公論新社)などがある。

◆作品情報
映画『朽ちないサクラ』
https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/
原作:柚月裕子『朽ちないサクラ』(徳間文庫)
監督:原廣利
脚本:我人祥太、山田能龍
出演:杉咲花、萩原利久、森田想、坂東巳之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和田聰宏、藤田朋子 豊原功補、安田顕
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)2024映画「朽ちないサクラ」製作委員会