「観客がどこでどんなふうに感動をするのかな」想像できなかった作品

 認知症を患い施設に入所したはずの父は、立派なスーツ姿で息子の前に現れるも、会話の内容は支離滅裂。その過程で、息子が後妻の居場所を尋ねると、父は「男たちに乱暴され、自殺した」と答える。息子は、真木よう子さん演じる妻とともに、父のこれまで、そして後妻についてたどることとなるのだ。

 ーーヒューマンサスペンスドラマ。そう銘打たれた本作は、そんな冒頭から十分に惹きつけられるが、まず脚本に目を通した藤さんは「この作品と観客がどんなふうに交わるのか、想像ができなかった」と話す。

「近浦(啓)監督の脚本は、ここで感動させようとか、そういう企みが一切なくて。ただただ、人間の宿命、人間が生きるということを直感的に淡々と描いているように感じました。だから、観客がどこでどんなふうに感動をするのかなと、想像できなかったんです」

ーーほかの多くの作品は、脚本を読んだ段階で「ここが観客が感動するポイントだ」など想像がつくものですか?

「ある程度、想像はつきます。そういう仕事が悪いというわけではなく、画としてそういう作品はわりとおもしろいんだよね。今回の作品はそのあたりが未知で、関わる人たちの志と腕次第だと思いました。だから私は、一生懸命やりたくなったんです」

藤竜也 撮影/三浦龍司