音楽は「喜怒哀楽とも切っても切れない関係にある」

――ソプラニスタとして、気をつけていることはありますか?

「本番前に多くしゃべってしまうと、喉が消耗してしまうので会話を控えています。だから、リハーサルでもほとんど歌わないで、本番のために声を取って置いています。それは精神的なものというよりは、身体的なことですね。

 でも僕の知り合いの歌手の中には、楽屋の電気を全部、本番まで真っ暗にするとか、自作のお茶しか飲まないという人もいます。でもそれは精神的な部分を整えるということだと思いますね。メンタルが強いのは、田舎育ちだから自由なのかなって思っています」

 岡本さんにとって、音楽は人間の感情と近い存在だという。

「音楽って、人間の根源にまつわる、生きるとか死ぬとか……。あと嬉しいとか悲しいというような喜怒哀楽とも切っても切れない関係にある。でも今、流行っている曲は、言葉数が多すぎて早口言葉みたいで、伝えたいことが伝わってこない。

 大量生産されている音楽の中に、心のよりどころを見つけるのが難しい。コンサートで僕がお客さんに伝えたい歌の中は、余白に思えるような部分があってゆったりしている。音楽的なことでいうと、長調(メジャー)と短調(マイナー)だと、今は短調の曲が本当に少ない。みんな前向きで励ますような長調の曲が多い。その中で、僕は喜怒哀楽の悲しみの部分も伝えていきたい」

岡本知高 撮影/三浦龍司