今年急逝した曙から7つの金星、生涯成績は15勝29敗

 美絵子さんとの間には、息子が4人。次男、三男、四男は現役の力士だ。現在、番付で上位なのが、三男の幕内・王鵬。190センチ、170キロの日本人離れした体躯、ウクライナ人の父を持つ祖父の面影を感じさせる顔立ち、時折見せる激しい闘志は父・貴闘力を思わせる人気力士に成長した。

「王鵬を見ていると、もどかしくて仕方ないんですよ。体の使い方を具体的にオレが指導したら、すぐに三役に上がれるはずなのに……。でも、王鵬は大嶽部屋の所属力士ですから、勝手な指導はできないし、なにより本人が自分の欠点を直す努力をしないといけないんです」

 貴闘力はこう厳しくいい放つ。

 というのも、現役時代、苦手だったある力士の攻略法を研究し、「キラー」と呼ばれる存在になったからだ。

 その力士は、横綱・曙だ。

 曙は貴闘力の弟弟子、若貴兄弟と同期入門し、彼らと出世を競い合い、3人の中で一番最初に横綱に昇進した。また、90年秋場所、貴闘力が新入幕を果たした時に、同時に入幕した(若花田も同時に昇進)仲間でもある。

「曙と最初に対戦した頃は、前に出てくるパワーに圧倒されて、あまり勝つことができなかった。でも、たまに勝つこともあった。その勝因を分析してみると、曙は立ち合い、当たって突っ張ってくるので、その突っ張る手を伸ばす前に中に入れば、なんとか自分のペースに持ち込めることがわかったんだ。ただ、曙の突っ張りは、次の一発が強い。それを受けてしまえば、オレの腰が砕けてしまう。だから、もう一発の突きを食らわないように、踏み込んで中に入るという作戦を取ったんだよね」

 曙が横綱に昇進してから、貴闘力は彼から金星を7つ獲得していて、生涯成績は15勝29敗。

「とても優しい性格で、人間的に大好きだった。曙がケガをした時は、オレが知っている病院に連れて行ったり、治療の先生を紹介したりもしたんだよ」

 曙がプロレスラーに転向してからも、連絡を取り合って、貴闘力がレスラーデビューした時は、2人でリングに上がる約束をしていたほどだった。

「曙はここ数年体調が悪くて、夢が実現できなかった。ホントに悔しいよ」

 今年4月、曙は54歳の若さでこの世を去った。

(つづく)