2014年に『恋歌』で第150回直木賞を受賞し、今や時代・歴史小説家として確固たる地位を築いている朝井まかてさん。だが、作家デビューを果たしたのは49歳と少々遅咲きだった。朝井さんの人生における「THE CHANGE」とは。さらに、新たな挑戦として、大阪の作家仲間と挑む「文士劇」旗揚げ公演についても話を伺った。【第2回/全3回】

朝井まかて 撮影/有坂政晴

 49歳にして、初めて書いた小説『実さえ花さえ』(のちに『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』に改題)で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、デビューを果たした朝井さん。その後の「THE CHANGE」と言えば、やはり直木賞を受賞したことだろう。デビューから5年目に執筆した『恋歌』で、朝井さんはその栄誉を手にすることになる。

「私が受賞した時、直木賞はちょうど第150回だったんですね。だからイベントに駆り出されることも多くて、その1年は記憶がないくらい忙しくて。乾燥機の中の洗濯物みたいに、ずっとぐるぐる回っているようでした。ラジオやテレビにもよう出ましたね。私、喋るの苦手なのに。……なんて『どの口が言う?』と言われそうですけど(笑)」

 しかも、同時期に義母の介護も始まった。

「もちろん夫や夫のきょうだい、介護のプロとも分担しましたが、なにぶん初めての介護でしたから、力の抜きどころがわからなくて。プライベートも怒涛の1年でした。
 そもそも作家としてはまだ駆け出しでしたから、仕事も満杯状態で。連載を休むなんて思いもつきませんでしたから。すでにおばちゃんやから人生経験はそれなりにあるわけなんですが、こと小説についてはウブでしたね。嘘や駆け引きを自分に許したくない、純粋なパーツでね。今も「天然」て言われてますけどね(笑)。だから、ひたすら駆け抜けましたね。当時の写真を見ると、痩せこけてますもん。
 そのうえ、当時はまだライターの仕事も続けていました。ただ、いずれ小説を書くことが私の人生の軸になると、直木賞を受賞した時にはっきり自覚しました。覚悟を決めたと言おうか」