マツコ・デラックスが、「いま一番好きな歌舞伎界のプリンス」として紹介したこともある(『アウト×デラックス』フジテレビ系)、二代目尾上右近。歌舞伎役者としての活躍はもちろん、テレビや映画、さらにはバラエティなどでも活動し、「けんけん」の愛称でも知られる右近さんは、江戸浄瑠璃清元節における七代目清元栄寿太夫の名跡でもある。歌舞伎と清元の二刀流で輝く伝統文化のプリンスは、さらに昭和の映画スター、鶴田浩二を母方の祖父に持つ。伝統芸能と映画界の血を受け継ぎながら、自身の力で輝く右近さんのTHE CHANGEとは──。【第3回/全4回】

尾上右近 撮影/有坂政晴

 2024年6月2日から上演された、博多座開場二十五周年記念「六月博多座大歌舞伎」の夜の部で『東海道四谷怪談』の舞台に立った右近さん。本興行でお岩を演じるのは、このときが初めて。しかしその前に、すでにお岩を演じる機会があった。歌舞伎役者、三代目尾上菊五郎を演じた映画『八犬伝』での一場面である。

「『八犬伝』で、初めてお岩さまの扮装(ふんそう)をしてセリフを言いました。映画は去年の撮影だったんですけど、演じたのは舞台の一場面のみですから、“歌舞伎の舞台で、フルで演じてみたいな”と思いました。そこで僕は今年の自主公演でやらせていただこうと思っていたら、そのことを知らないはずの松竹から、“6月に博多座でやってください”とオファーをいただいたんです」

──映画ありきのお話だったわけではないんですね。

「役者をしていると、不思議なご縁を感じます。自分でその役を選んでやらせていただいているように思えて、実は“役に選ばれているのが役者だ”と。特にお岩さまの役は、本当に自分は選んでもらったんだなと、映画『八犬伝』から、博多座での公演にかけて、すごく思いました」

──役を選んだようでいて、選んでもらった。

「選んでもらったからには、素晴らしいお岩さまにしたい。つまり、自分の当たり役にしたいという気持ちがあります。初演だった三代目のときとはまた違う、代々やってきた人がいるお岩さま。重ねてきたものを自分が踏襲しながら、お客様に楽しんでもらえる芝居をしようと強く思いました」